砦なき者 


2008.2.6 メディアの危険性 【砦なき者】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
破線のマリスの続編的あつかいの本作。まず冒頭のエピソードにやられた。「殺人されます」予告を告白し、そして実行される。この部分だけでも一つのミステリーとして成立するほど強烈なインパクトを残している。その流れに引きづられるように、報道の力、テレビの力というものをまざまざと思い知らされる部分もある。そして、極めつけはメディアの怪物と言われた八尋の登場である。この八尋が自分の手を汚さず、自分の思い通りにことをはこび、大成功する様子は白夜行の亮二を思い出してしまった。盲目的に八尋を信仰する若者など、気づいていないだけで、現在のメディアにも存在しているのかもしれない。これほどメディアの悪しき力を直接的に描いた作品は初めてだ。

■ストーリー

報道番組『ナイン・トゥ・テン』に売春の元締めとして登場した女子高生が全裸で首を吊った。恋人を番組に殺されたと訴える青年八尋樹一郎の姿は、ライバル局の視聴率を跳ね上げた。メディアが生んだ一人のカリスマ。その邪悪な正体に気づいたのは、砦を追われたテレビマン達だった

■感想
メディアのカリスマ的存在というのは、いつの時代のどの時期にも影響力の大小があるにせよ存在していたのだろう。ちょっと前で言えばホリエモンなどもそうだったのかもしれない。大部分がメディアによって作り上げられたと言ってもいいだろう。そんな時代にあって、本作ははっきりとその危険性を警告している。冒頭のエピソードでは「殺されます」予告がテレビにリークされ、その情報のあつかいに神経を尖らせるメディア側。情報を開示したときの影響力の大きさをシミュレートしながら、公共性や公平性を考え動く赤松ディレクター。テレビの恐ろしさを、まずはジャブ的なもので表現している。

まず、この冒頭のエピソードがとてもミステリアスで興味深いものであった。これだけで長編が一本できてしまうのではないかと思うほど濃密で、緊張感溢れるエピソードだった。その勢いを保ったまま、後半からはメディアが作り上げた怪物として八尋が登場する。この八尋は自分の手を汚さずメディアを巧みに操作し、物事を自分の思い通りに進めている。家族の不幸や、清貧な生活から抜け出すため犠牲をいとわない姿など、どこかで読んだような気がした。それは、白夜行の中で影として暗躍する亮二を思い出してしまった。

亮二も八尋もそうだが、圧倒的な力を持つ者は、いつ崩れるかわからない危うさのようなものを漂わせている。八尋はメディアを利用し、亮二は人間を利用する。両者ともとてつもない犯罪者なのだがその手法にしびれるものを感じてしまう。

メディアの力で簡単にカリスマを作ることができる現在。メディアに関わる者はそれを理解しながら、自分たちの利益のために、あえて虚像を作り上げたりもする。メディアの危険性を警告すると共に、見る側にも、真実を見抜く目を養えと言っているようにも感じてしまった。

しかし、相変わらず作者の作品は冒頭から強烈なインパクトを残し、その勢いを保ったまま読者のテンションを下げさせない。もうこの作者の新作が読めないとなると、残念で仕方がない。



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