東京奇譚集 


2008.1.5 面白さを再認識 【東京奇譚集】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
久しぶりに読む村上春樹はとても楽しめた。丁寧な語り口と小粋な会話。現実ではとてもできそうもないようなオシャレな会話をさらりと繰り広げる登場人物たち。全体的なストーリーを把握できず、明確な結論がでていないと感じていた過去の作品と比べ、今読むとこれはこれでありなのだろうと思えてきた。徹底的なリアリズムを求めない、文章を楽しむということに本作を読んで気づかされたような気がする。不思議で奇妙で、どこか暗く陰鬱な感じがすると思いきや、さらりと何でもない日常のように感じてしまう全体の流れ。強烈なインパクトを残すことはないが、無性に読みたくなるような作品である。

■ストーリー

奇譚(きたん)とは、不思議な、あやしい、ありそうにない話。しかしどこか、あなたの近くで起こっているかもしれない物語――。話題の四作品に、書き下ろし『品川猿』を加えた短編集。

■感想
怪しく、そして不思議な話を集めた短編集。奇譚という名のついた本作だが、実はそれ以外の村上春樹作品にも奇妙で不思議な話が多い。あえてこのタイトルをつける必要があったのかは非常に微妙だ。それにしても久しぶりに読む村上春樹作品はかなり楽しんで読むことができた。何がなんだかわけがわからないうちに、煙に巻かれて終わっていると感じたことも多かった。本作もそれに順ずるのだろうが、読み終わった印象は随分と違う。かなり楽しめて読めたのは確かだ。

暗く静かで、奇妙な雰囲気を感じながらも、丁寧な語り口から、ありきたりな日常のように感じさせる文体。登場人物たちの生活レベルはかなり高く、そして落ち着いて平穏な日常というのがベースにあるのだろう。もしかしたら作者の生活そのものなのかもしれない。そんな日常の中で突如訪れる奇妙な出来事を、
丁寧で読みやすく平易な文章で語られている。自然とその情景が頭に浮かんでくるような、静かな日常なのだろう。

文章の面白さと登場人物たちの小粋な会話。翻訳家らしい文体もあちこちに見られる。ストーリー的にはもしかしたら崩壊していると感じる人もいるかもしれない。何が言いたいのかよくわからない場合もあるかもしれない。それらすべてをひっくるめて村上春樹の作品なのだなぁと、いまさらながら感じ始めた。すべてにおいて明確な回答を求めるような人には合わないのかもしれない。ちょうど昔の自分がそうだったように。

過去、むさぼるように読みながら、その面白さをあまり理解できなかったが、久しぶりに読んで、面白さを実感するとは皮肉なことだ。



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