地球儀のスライス 森博嗣


2005.11.13 濃密な作品多数な短編集 【地球儀のスライス】

                     
■ヒトコト感想
今まで短編集だとどこか物足りないような印象を受けたが、本作は違った。
中身の濃いとても心に残る作品がいくつかあり
いつもの森作品とは一風変りつつもそれなりに面白さと感動をキープしている。
その中でも「小鳥の恩返し」は一見ちょっとしたおとぎ話のようでもあるが、ものすごく深い内容だ。
さらに「素敵な日記」ではある程度予想はできたがまさかその手があったのかという新鮮な驚きと
長編にしてもおかしくない絶妙なミステリーだ。
最後の「僕は秋子に借りがある」ではそれほど感動する物語ではないはずなのになぜか無性に心に残っている。

■ストーリー
「黒窓の会」。西之園萌絵を囲んで開かれるその秘密の勉強会にゲストとして招かれた犀川創平は、
古い写真にまつわるミステリィを披露した。
屋根飾りと本体が別々になった奇妙な石塔は、何のために作られたのだろうか。
S&Mシリーズ2編を含む、趣向を凝らした10作を収録。

■感想
今までの短編集ではどこか片手間とまではいかないまでも、
長編ほど真剣に力を込めていないような印象をもっていたが
本作のように全てが面白いというわけではないが、
中には何作かキラリと光るすばらしい作品があるのは作者が短編集にも力を抜いていない証拠かもしれない。

短編集の宿命かもしれないが、1つ1つが軽く読める変わりにそれほど心に残らずに、
二三日すると忘れ去られてしまう運命にあったのだが、
今回は心の奥底にっずっと残っているような気がする。
ネタ的にも優れている物が多く、他の作家が本作を読んで新たなネタを考案しそうな程良く練り込まれている。

この短編集の中には長編にすればさらにすばらしい作品に生まれ変わるかもしれない作品もあるだろうが
僕的にはこのまま濃密な短編でそれ以上継ぎ足したりしてほしくない。
適度な長さとネタの絶妙なバランスで成り立っていると思うので、
確かにまどろみ消去の時は少し物足りなさも感じたが本作ではそのようなことはまったくなかった。

次期シリーズの登場人物が出てくるあたりもマーケティング的にはかなり優れている。
本作を読んだら、この人物達がその後どんな事件に遭い、
どんな行動をするのかということが気になって仕方がない。

恐らく次のシリーズも読むだろうが、本作のような濃密な物語を期待したい。



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