2008.3.9 名前だけは知っている 【ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック】
評価:3
■ヒトコト感想
作者のヨーロッパ滞在期間中に起きた出来事をエッセイとして纏めている作品。雨天炎天はその中でもギリシャでの過酷な旅を描いていたが、今回は日常をありのままに表現しているようだ。朝起きてジョギングし、朝食を食べ、仕事をし、買い物をして昼寝をする。そして、夜はワインやビールを飲む。のんびりとしたヨーロッパ放浪生活の中に、作者の生活スタイルというのが見え隠れする。もちろん平穏な日常ばかりでなく、様々なトラブルもある。その土地独特の風習や、人々との出会い。もはや旅とはいえないレベルの長期滞在、そのすばらしい魅力と、ほんの少しの嫌な部分をしっかりと表現している。なんだか無性に旅に出たくなる作品だ。
■ストーリー
ある朝目が覚めて、ふと耳を澄ませると、何処か遠くから太鼓の音が聞こえてきたのだ。ずっと遠くの場所から、ずっと遠くの時間から、その太鼓の音は響いてきた。―その音にさそわれて僕はギリシャ・イタリアへ長い旅に出る。1986年秋から1989年秋まで3年間をつづる新しいかたちの旅行記。
■感想
ヨーロッパに滞在しながら長編小説を書く。エッセイから感じるのは、すばらしくのんびりした生活ばかりだが、実際には長編小説を書き終えるという途方も無い作業をしているということも垣間見える。シーズンオフに気の向いた場所におもむき、そこで現地の人とささやかな交流と、うまいワインを飲む。英語が堪能な作者であってもイタリア語やギリシャ語での会話は苦労するようで、言葉の壁の厚さを感じさせるような描写もある。
旅のレベルを超えた長期滞在。自然に自炊をし、ビールやワインを飲む。本当にこのエッセイでは食べ物がおいしそうに感じてしかたがない。本当にうまかったのかもしれないが、文章から味のようなものが伝わってくるほどだ。のんびりとした田園風景の中でジョギングをし、夜にはコンサートに行き、そして楽しい食事をする。すべてにおいてパーフェクトに感じてしまう。そして、それに対してものすごい憧れを感じている自分がいる。本作には嫌な面やトラブルなども多少描かれてはいるが、それらがほとんど気にならないほど、日々の生活を楽しんでいるように感じてしまった。
雨天炎天が編集者とカメラマンという仕事メインのメンバーだとすると、本作は夫婦二人だけの旅だ。この夫婦二人だということも大きなポイントなのだろう。何か車にトラブルがあれば、相手のことを考え何かと気を使う。同乗者がいればこそ、感じる思いというのもあるのだろう。おいしいものを食べて喜びも二倍。悲しみは二分の一。何かの格言のようになってしまったが、期限をもうけない気軽なヨーロッパ旅行というのはものすごく魅力的なものに違いない。
この旅は作者の職業的性質から可能なことだ。無理とはわかっていながらも、自分もやってみたいと思ってしまった。
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