照柿 下 


 2008.7.6  夏の暑さと消化不良 【照柿 下】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
上巻から引っ張ってきた人物描写。平凡な事件の中にどのような影響を及ぼすのか。事件に何かしらのオチを期待していたものにとっては、この終わり方は少し消化不良かもしれない。確かに、濃密な人物描写とひりつくような暑さと色味。これが本作の個性となりうるかは、事件との関連性にあるのだろう。明確なオチを期待するのは本作のことをミステリーと勘違いしていたからだ。ミステリーという枠組みで考えなければ、十分面白い作品だと思えたのだが…。期待が大きかっただけに、結末間近ではテンションが下がってしまった。しつこいまでの工場の描写や、夏の暑さ。読んでいるだけで、まるでその場にいるような感覚にさせる文章力は素晴らしいと思う。

■ストーリー

難航するホステス殺害事件で、合田雄一郎は一線を越えた捜査を進める。平凡な人生を十七年送ってきた野田達夫だったが、容疑者として警察に追われる美保子を匿いつつ、不眠のまま熱処理工場で働き続ける。そして殺人は起こった。暑すぎた夏に、二人の男が辿り着く場所とは―。

■感想
警察組織の理不尽なまでの隠蔽体質。事なかれ主義、減点をどれだけ少なくするかだけを考えて勤務する日々。それらは横山秀夫作品で嫌というほど味わってきたので、そこにそれほど衝撃はない。もし、先に本作を読んでいれば、このあたりでもずいぶん衝撃を受けていたことだろう。本作の特徴である一つが打ち消されてしまったので、後はひたすら野田達夫という人物の生き様を追っていくしかないというような流れになってしまった。

最後までその人物像をしっかりと掴みきれなかった野田達夫。工場に勤務しながら、芸術活動に勤しみ。それでいて、昔は悪で暴力衝動もある。これらがすべて一人の人物に同居するというのは、ちょっとイメージになかった。身近に投影する人物がいないというのもあるが、工場勤務と芸術家というのは相反するものだと思っていた。合田雄一郎との関係であっても、幼馴染という親しさよりも、最初からライバル心をむき出しにしているようにも感じた。この野田達夫という人物の正体不明感も作者の策略なのだろうか。

夏のさかりに工場で熱く焼ける釜を監視し続ける。考えただけでも汗がにじみ出る。本作の特徴でもある暑さと色合い。特に熱処理工程の照柿色とワンピースの青というのがその場の心理状態を象徴しているようでとても印象に残っている。それにしても、工場で幾度と泣く発生した不具合の原因は結局なんだったのだろうか?そして、野田が生理的に受け付けなかった小木とはどのような人物だったのだろうか。謎を謎のままで残しているのか、最初から説明する気がなかったのか、その部分だけが最後までに気になってしかたがなかった。

期待が大きかっただけに消化不良を感じずにはいられなかった。



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