疾走 下 重松清


2006.5.5 救いようのない物語 【疾走 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻ではすくいようのない人生のどん底状態だったシュウジがこの下巻でどのように救われていくのか、兄のシュウイチにはどのようの結末が待っているのか、常にハッピーエンドを前提として読んでいた。本作はその読者の目論見を根底から崩すように、上巻からさらに輪をかけて辛く苦しい不幸がシュウジにおとずれる。読んでいて苦しくなってくる。わかったふりすることは簡単だが、本作でここまで苦難が続く意味も必然性もわからなかった。夢も希望もない救いようのない話だ。

■ストーリー

誰か一緒に生きてください―。犯罪者の弟としてクラスで孤立を深め、やがて一家離散の憂き目に遭ったシュウジは、故郷を出て、ひとり東京へ向かうことを決意。途中に立ち寄った大阪で地獄のようなときを過ごす。孤独、祈り、暴力、セックス、聖書、殺人―。人とつながりたい…。ただそれだけを胸に煉獄の道のりを懸命に走りつづけた少年の軌跡。

■感想
地獄のような時を過ごすというのはこのことかもしれない。上巻ではまだそれなりに幸せな生活の片鱗が見えていたのだが下巻ではそれが何一つない。希望を持つとか夢を持つというのを許されない状態。中学生であるシュウジには辛すぎる展開なのだが、それに対する助け舟のようなものが何一つない。ここまで辛く苦しい物語を作る必要があったのだろうか。

もし、本作を同じようにいじめを受け、自分のことを不幸だと思っている中学生が読んだとき、勇気付けられるのだろうか自分よりも、もっと苦しい立場にあるシュウジを見て、自分はまだまだやれると思うのだろうか。どこまで辛く苦しくても死という手段を選ばないシュウジを見てがんばれるのだろうか。どうもそうは思えない。読んでいくうちに辛く苦しい気持ちになるだけだ。

ただひとつの救いはシュウジの結末かもしれない。最後の最後に前向きな気持ちから自分の人生にピリオドを打てたシュウジの心はもしかしたら晴れやかなのかもしれない。それを思うと今までの辛く苦しい人生の中で最後に訪れたささやかな幸せを読んでほんの少し心が和やかになった。

物語のキーと思われた神父がほとんどその役割を果たしていないような気がした。神父が迷える中学生を救い出すというありきたりな展開にしないのは本作の特徴かもしれない。救いがないので読んだ後味はあまりよくない。





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