疾走 上 重松清


2006.4.13 とてつもなくクライ 【疾走 上】

                     
■ヒトコト感想
クライ。とてつもなくクライ。中学生が主人公の作品だが、作中に中学生らしく楽しく遊ぶような描写がひとつもない。あるのは差別やいじめ、家族の問題などだ。今現在の日本の病んでいる部分がすべてそのまま本作に凝縮されたような感じだ。上巻としてはジュウジの周辺に起こる様々な問題やシュウジ自身に起こる問題。それを克服することもできず無為に毎日を生きるシュウジ。このあたりが作品全体をクライ雰囲気にしている原因だろう。しかしその問題適宜した部分が下巻でどのような変化をもたらすのか、どうゆう結末にもっていくのか非常に気になる作品だ。

■ストーリー

広大な干拓地と水平線が広がる町に暮す中学生のシュウジは、寡黙な父と気弱な母、地元有数の進学校に通う兄の四人家族だった。教会に顔を出しながら陸上に励むシュウジ。が、町に一大リゾートの開発計画が持ち上がり、優秀だったはずの兄が犯したある犯罪をきっかけに、シュウジ一家はたちまち苦難の道へと追い込まれる…。十五歳の少年が背負った苛烈な運命...

■感想
根深い差別やいじめ。本作を読んで一番に思ったのは差別やいじめがあるのなら短絡的かもしれないが逃げればいいと思った。転校するなり、引越しするなりいろいろ方法はあるだろう。経済的理由やその他のことで無理なのかもしれないが、それもひとつの選択肢として常に頭のすみっこにおいて読んでしまった。

本作の様々な登場人物の中で誰に感情移入するかによって、本作の見方がかなり変ってくると思う。主人公のシュウジの気持ちは良く分かるのだが、兄のシュウイチがものすごく気になった。プライドの塊のような人物が壊れた場合、それを救済する方法とはどんなことなのだろうか。勝手に予想するとありきたりに神父と聖書に救われるのか。もしかしたら現代社会の歪みの象徴としてそのまま放置されるかもしれない。

様々な要因があり、いったい何に注目していいのか。すべてが主人公であるシュウジに関わる問題で客観的に見れば非常に辛い境遇だと思う。すでに中学生にしてここまで人生のどん底のような状態を味わうとこの後どのように成長していくのか、その成長物語が下巻に書かれていることを期待する。




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