深夜特急5 


2007.5.19 無難な旅小説 【深夜特急5】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
旅も佳境に入り、旅に望む<私>のテンションも幾分変わってきている。初期の頃はアジアの雑多な雰囲気の中、異国で見るものすべてが珍しい生活を楽しんでいるような気分を感じていた。しかし、本作あたりになるとすでに旅なれたもので、何に対してもハプニング的なものもなければ、全てが無難にこなせているように思えた。そうなってくると物語からは初期の頃のような何が起こるかわからないハラハラドキドキとした雰囲気が弱まってしまう。街角で熊をけしかけられるくだりは面白かったが、それ以外はなんだか無難な旅小説のように感じた。

■ストーリー

アンカラで〈私〉は一人のトルコ人女性を訪ね、東京から預かってきたものを渡すことができた。イスタンブールの街角では熊をけしかけられ、ギリシャの田舎町では路上ですれ違った男にパーティーに誘われて。ふと気がつくと、あまたの出会いと別れを繰り返した旅もいつのまにか〔壮年期〕にさしかかり、〈私〉は、旅をいつ、どのように終えればよいのか、考えるようになっていた。

■感想
生きるため、そして生活するために必死だというイメージがあった中東、アジア。ここへきてトルコ以降は国民の生活レベルが上がっているのか、生きるための執念というか暑さのようなものを感じることができなかった。実際に地理的にも寒い国だというのも多少はあるかもしれない。

イスタンブール、ギリシャ。地中海の観光地として有名な場所に降り立つ<私>だが、そこには初期のころのような心から沸き立つような高揚感というのが薄れているように思えた。国自身のテンションの違いなのか、それとも旅に対して磨耗してしまい、作中でもあるように
好奇心が疲弊してしまったのだろうか。ただ、地中海の美しい風景を眺めながら旅をするごく普通の旅小説というイメージを最後まで拭い去ることはできなかった。

出会いと別れがあるのは本作に限ったことではないが、その他の部分にインパクトが少ないだけに、本作ではその部分がことさら強調されている。磯崎夫婦に頼まれ手紙を渡すくだり。旅に対して唯一の目的といってもいいのだろうが、やはり今までの目的を持たない旅ということからいうと少し外れているような気もした。別段問題はないのだが、ハラハラドキドキさせる何かハプニングが起こってほしかった。

初期の頃と比べると、明らかに旅に対するテンションが落ちているような気がした。それと比例するように作品の面白さも落ちているような…。

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