セリヌンティウスの舟


2006.3.6 明確な理由のない自殺 【セリヌンティウスの舟】

                     
■ヒトコト感想
なぜ自殺したのか?自殺という事実よりも自殺の状況に焦点が当てられている。自殺の状況を様々な理由からいろいろと想像するのだがどれもこじつけにしか思えなかった。理由がとても偶然に頼っているようであり、物的証拠が何もない状態での推理。最後まで読み終わると、あえてこの不自然な議論を続けていたのかもと思えなくもないのだが・・・。結局最後まで自殺に至るまでの明確な理由が示されていない。本作に書かれている理由はとてもすんなり納得できるようなものではなかった。

■ストーリー

荒れ狂う海で、六人のダイバーはお互いの身体をつかんで、ひとつの輪になった。米村美月、吉川清美、大橋麻子、三好保雄、磯崎義春、そして、僕、児島克之。石垣島へのダイビングツアー。その大時化の海で遭難した六人は、信頼で結ばれた、かけがえのない仲間になった―。そんな僕らを突然、襲った、米村美月の自殺。彼女はダイビングの後の打ち上げの夜に、青酸カリを飲んだ。その死の意味をもう一度見つめ直すために、再び集まった五人の仲間は、一枚の写真に不審を覚える。青酸カリの入っていた褐色の小瓶のキャップは、なぜ閉められていたのか?彼女の自殺に、協力者はいなかったのか?

■感想
事の発端はダイビングでのあるハプニングがきっかけとなる。人が自殺に至るまで、どのような葛藤があるのだろうか。ましてや若者が自殺にまで追い込まれる原因はなんなのだろうか。本人にしか分からない何かがあると言われてしまえばそれまでだが、小説という作品の性質上多くの人に共感を与えるようなものでないと説得力が生まれないと思う。それを考えると本作の自殺理由にはまったく共感ができなかった

自殺の状況を細かく分析し、あれこれと推理を働かせている。その過程は確かに面白く、思わぬ方向に進むのも意外でよかった。しかし、それを議論すると途端に無理やりこじつけている印象はぬぐえなかった。あまりに個人の想像に頼りすぎているか強引に理論を展開しているようだった。

自殺の協力者である、なしの理由を考えるときに物的証拠も少なく、全てが状況証拠と完全に想像だけに頼っているために物語の中の人物達はあっさりと納得しても、読者としては納得できない部分がいくつかあった。それを気にするか、しないかで本作にはまれるか、はまれないか分かれると思う。



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