2006.9.22 この時代の特権でもある 【青春の門 自立篇】
■ヒトコト感想
大学時代は人生の中で一番自由な時間だと言えるだろう。今になって考えると、まさにとんでもなく無駄な時間を過ごしていたような気がする。その時はそんなことを一切考えず毎日を過ごしてきた。本作はそんな自由な大学生活とは程遠い、毎日生きるのに精一杯というような生活から何かを得ようとする、そんな信介の生活が描かれている。大学には行かずに仲間と共に過ごす時間は何ものにも変えがたいもので、自分にもあったそんな時代をふと思い出したりもした。もちろん本作のような激しい学生生活を過ごしてきたわけではないがそれなりの思い出がある。本作の中に重なりあう部分があるかというとまったくないのだが、それでも懐かしさを感じてしまった。
■ストーリー
筑豊の山河を後に、1人上京した伊吹信介。大学入学第1日目の失望、そして次々に開かれていく東京という未知の世界の扉。苦しい日々のなかの熱い友情と異性への想い。信介はいま青春のただなかにいる。だが、自らの命を賭ける夢は依然として見いだせない。
■感想
金のない生活。だいたいが金と自由は直結しない。自由があるときには金がなく、金があるときには自由がない。しかし本作の信介は金がなく、その金を稼ぐためのバイト三昧で自由すらない。客観的に見るとかなり苦しい生活を強いられており、気の毒に思えるのだが恐らく本人としては自ら望んだ生活なのだろう。後先考えず突っ走ることができる年齢。そして何をしてもまだやり直しがきくというどこか心に余裕がある年齢でもあるはずだが、本作の信介にはそんな余裕を一切感じることができなかった。
自分がどんな大学時代を過ごしたのか。つい本作の信介と比べてしまうが、そうするとどうしても自分の学生時代がつまらないもののように思えてしまう。本作は小説であり、作りものと判っていながらも、エネルギッシュに動き回り、数々の困難に直面してもどうにか切り抜ける信介の大学生活を感じると、何もできなかったという後悔の気持ちが強くなってしまう。
青春の門というある種青臭い題名のとおり、大学生とはいえ青臭い考えを持っている部分が多々あったが、それすらもこの時代の特権だと思えてしまい、とてもうらやましく感じた。もし本作を読んだときリアルに自分が大学生であったならば、普段の学生生活はもちろん多かれ少なかれ私生活にも影響を与えていただろう。それが悪い方に向かうか、良い方に向かうかわからないが、そのパターンもありなのではないかと思っている自分がいる。
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