沙高楼綺譚 


2007.6.26 後からジワジワくる 【沙高楼綺譚】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
絶対に外部に漏らすことがないと信頼できるのなら、自分の胸に秘めた思いを告白してもいいと思う。誰にも言えず、自分の中だけで悶々とすごすよりは、秘密を共有し、自分のうちに秘めた思いを露呈する。秘密が大きければ大きいほどその快感は大きいのだろう。本作も各界の名士たちが語る秘密が物語となっている。中身は秘密というほど大げさな秘密ではない。しかし、気軽に人に話すわけないはいかない内容だ。特別大きな驚きや恐怖感などはない、しかしなんだかわけのわからない後味を感じ、思い出すと鳥肌がたってくる。そんな、後からジワジワとくる作品だ。

■ストーリー

各界の名士達が集う「沙高楼」そこで語られるのは胸に秘めた各々の秘密。決して嘘偽りを言わず、聞いたことを他言しない、それだけをルールに吐露される深部。小鍛冶、糸電話、立花新兵衛只今罷越候、百年の庭、雨の夜の刺客の五編が収録されている。

■感想
何かがあるかと身構えていると、それほど大きなことはなく。何も考えずダラダラと読んでいると、突然驚きがやってくる。特別なトリックや事件があるわけではないが、各界の名士たちの語り口が神妙で、何か神秘的なものを感じさせる。その雰囲気に飲まれてしまうというのが正しい表現の仕方だろうか。

「小鍛冶」や「立花新兵衛只今罷越候」は作者の壬生義士伝を思い起こさせる雰囲気がある。特に後者はまさにそのまま吉村貫一郎が登場したかのように熱く、そしてまっすぐな印象を読むものに与える。はっきりと明言せずとも雰囲気でどんなオチがまっているのかを感じることができる。オチがわかっていながらも読み進めてしまうのは、作者の筆力のなせるわざだろう。

その他の作品はまた違った趣となっている。名士たちが話す内容に大きな目玉があるようには感じないのだが、淡々と語る中には
人間の本質をついているような深さを感じることができる。一番恐ろしいのは人間であり、一番優しいのも人間である。そして、その人間の本質は職業や環境などに依存することなく、その人が持っている本質がでてくるのだと感じた。

短編の中には何も考えずサラリと読めるものがあると思えば、難解で読みにくいものもある。しかし、それなりにバランスがとれているので読んでいて辛くはなかった。



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