最後の瞬間のすごく大きな変化 


 2008.5.28  読みにくさもセールスポイント 【最後の瞬間のすごく大きな変化】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
訳者自身があとがきで非常に難解だと言っているように、確かに難しい。物語としての複雑さというよりも、文章としての読みにくさというのだろうか。今、この言葉は誰の言葉なのか、人称がはっきりしない話言葉、突然なんの前触れもなく変わる場面。物語としてのストーリーを追い求めるということが難しくなるほど、読みにくい。自然に集中力もなくなってくる。しかし、なぜか不思議な魅力はある。訳者はこの読みにくさも作品のセールスポイントとして、そのまま残しているようだが、確かに、この難解さがなくなると、平凡な作品と感じていまうのだろう。難解さも含めて、それが本作の魅力なのだが、気軽な気持ちで読むと、途中で投げ出してしまうかもしれない。

■ストーリー

レイモンド・カーヴァー以来、久々に自らの手で翻訳を手掛けたいと村上春樹が感じたペイリーは、これが本邦初の翻訳化。市井の人々の生活を題材にした庶民的なドラマながら、良く吟味された繊細かつ大胆な文章。ユダヤ系アメリカ人らしいユーモアと情を盛り込んだ話は、最初はとっつきにくいかも知れないが、読み込むうちにその言葉の味わい深さ、苦境にもめげず、生きることの意味に気づき、登場人物が身近な存在に感じるようになる。

■感想
本作を原書で読むと、また違った感想をもつのかもしれない。村上春樹が独自の感覚で訳し、できるだけ原書の雰囲気を損なわないように訳された本作。文体の難解さまでも、キッチリとそのまま残して訳されたようだ。当然、普通に読んでいくと、?と思うところが多々ある。その場合は、その場に立ち止まり、しっかりと何度も読み返してみると自然と意味がわかってくる。はっきり言えば最近流行の携帯小説なみにスラスラと読めるようなものではない。というか明らかに対極にある作品だ。文学的意義がどうなのかわからないが、たまにはこの難解さもいいのではないかと感じてしまった。

決して読みやすいとはいえない文章。それはつまり、ストーリーを把握することすら困難に思わせるほど強烈なものだ。救いなのは、それほど長くはなく、短い作品が多数収録されているので、集中力が持続しやすいのだろう。ストーリー的にそれほど複雑ではないというのも、助かった部分なのかもしれない。

特徴的な作品がいくつか収録されている本作。特にフェイスに関する作品は、何作か収録されている。登場人物の内面描写と地の文との境目がなかなか判断しにくいというのもあり、理解するのに相当時間はかかった。しかし、この難解な文章も、不思議なリズムがあり、読んでいくうちに、それが心地よく感じてくるから不思議だ。ある短編などは、これはすごく極端な例かもしれないが、内容よりも、その文章のリズムだけを楽しんで読んでいたというのもあるかもしれない。

この難解さは初心者お断りな雰囲気がある。チャレンジするかは、その人の読書暦しだいだ。



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