リビング 重松清


 2008.5.6  家庭をもてば感じる何か 【リビング】  

                     
■ヒトコト感想
短編がいくつも収録されている本作。いつもの作者ならば、イジメや家族の問題をテーマとした作品が得意というイメージだったが、本作はがらりと変わっている。いや、変わっていないといえるのかもしれないが、僕の中ではずいぶん様変わりしたように感じた。連載雑誌が主婦向けというのもあったのだろうが、ブラックな部分が少なく、どこかほのぼのとし、そして教訓じみたことも含まれている。ああ、そうだったというような共感を得る場面もあれば、まったく理解不能な場面もある。もしかしたら、今後家庭をもち、家族をもてば、本作の全ての作品に何かしらの共感を得ることができるのかもしれない。その時にもう一度読んでみようかなぁ。

■ストーリー

ぼくたち夫婦は引っ越し運が悪い。今回の新居は完璧、だったはずなのに…ディンクスの夫婦は互いにぶつかりながら、隣家とまじわりながら、共に生きることを確かめあっていく。四季折々に紡がれた連作短篇『となりの花園』を縦糸に、いとおしい毎日のくらしを横糸に、カラフルに織りあげた12の物語集。

■感想
自分にはまったく関係のない世代の話であっても涙を誘われる場合がある。それが本作でいうところの「千代に八千代に」だ。憎まれ口をたたきながら、今風に言うところのドSとドMの関係であるためうまくいく二人。なんだか、頭の中でよぼよぼのおばあちゃん二人が並んで話をしている情景を思い浮かべると、自然に目頭が熱くなってしまった。別におばあちゃん子というわけではないのだが、なんだか無性に悲しくなってしまった。その悲しさも決していやなものではなく、とてもさわやかな悲しさだった。

もう一つ印象に残っているのは「ミナナミナナヤミ」だ。ある日突然、離婚を突きつけられる夫。このなんだか理由がわからないが一緒にいたくないという感覚。実はこれはものすごく良くわかり、そして一番たちが悪いということもわかっている。それだけに、読んでいてとても苦しくなってきた。もうこうなったらどうしようもないということがわかっているだけに、自分に置き換えて考えてしまい、苦しくて心臓がドキドキしたほどだ。それが「ミナナミナナヤミ」という呪文の秘密を暴くことで、一筋の光が差し込んでくる。その後の結末がどうなるかはわからないが、「ミナナミナナヤミ」というのは、自分の中で一つの呪文になるような気がした。

最後に一つあるとすれば、本作の作者と自分の地元が実は同じだということだ。まさかここまで地元話を赤裸々に語られると、親近感をもつのだが、この作者の人となりをもっと知りたくなってしまった。恐らく同郷ということで、妙な親近感がわいてきたのだろう。世代はまったく違うが、下手したら知り合いだといってしまえるほど、自分に対して身近に感じてしまった。

世代がかなり違うだけに、作者が熱中した青春時代と自分を当てはめることはできない。しかし、同じにおいを感じることはできる。




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