後巷説百物語 


2007.8.12 レベルは高いが、ぶつ切り感がある 【後巷説百物語】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
前作の続巷説百物語から随分時間が経ってしまったが、やっと本作を読んだ。前作が起承転結がしっかりしており、すばらしかったため、必要以上に期待感を高めてしまった。前作までの秘められた謎がすべて明らかになる、という気持ちで読んだが、意外なほどそのことには答えてくれなかった。百介の昔話形式で妖怪にまつわる逸話を語っていく。もちろん、その話一つ一つは魅力的なのだが、全体のストーリーとしてしっかりと筋道が立てられていた前作と比べると、どうしても支離滅裂のように感じてしまった。そうは言っても最後にはしっかりと後始末をつけてくれる。期待が大きかっただけにハードルはどうしても高くなってしまう。

■ストーリー

無類の珍談奇談好きである東京警視庁一等巡査の矢作剣之進は、仲間と共に薬研堀の九十九庵を訪れる。維新から十年、町並みも世情も変わりゆく中、いまだ江戸が残るその庵の主は一白翁と名乗る老爺。かつて怪異譚を集めて諸国を巡ったという、博学にして無欲なる世棄て人である。若者に乞われて隠居が語る、怪しく、悲しい昔話。胸の裡によみがえるは、鈴の音と、忘れえぬあの声…御行奉為

■感想
又一たちは百介の回想の中にだけ存在する。あのキャラクターたちが自由に動き回るわけではなく、すべては百介の想像で語られているために、前作までとは明らかに作品の雰囲気は変わっている。妖怪が絡むような雰囲気は変わらないのだが、人の罪や罰などを、妖怪に見立てて憑き物落としを鮮やかに披露した又一がいるのといないのでは、こうも雰囲気が変わるのかと少し驚いた。

それぞれの短編は相変わらずレベルが高い。「赤えいの魚」や「山男」などは、前作からの流れを引き継いでいるようで、読んでいてどのような謎が隠されているのか、謎が明かされるまで物語に引き付けられてしまった。それ以外の作品もそれなりに面白く、最後の「風の神」もしっかりと結末に導いてくれてる。しかし、どうしても作品自体につながりを感じることができず、ぶつ切りな印象はぬぐいきれなかった。

山猫廻しのおぎんに関する秘密にしても、前作までの引きの強さに比べると、本作は随分と軽く、そしてあっさりと直球勝負できたなという感じだ。それが悪いのではないが、どうしても何か大きな秘密を期待してしまった。シリーズとして考えると最終巻ということになるのだろうが、物語のテンションでいくと前作に負けている。ただ、本作は直木賞を受賞しているので、それなりに評価が高いのだろう。純粋なエンターティンメントとしては前作の方が優れていると思った。

期待が大きかっただけに、失望も大きい。レベル的には平均して高いのだが、それ以上を求めてしまう。
好きな作者だけになおさらなのかもしれない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp