ノルウェイの森 上 


2006.12.28 青春はこんなに淡白か 【ノルウェイの森 上】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
青春は熱くそして汗臭いイメージだ。しかし本作の中の青春は非常に淡白であっさりとした印象を受けた。その内側にどれだけドロドロとしたものがあっても、さっぱりとした小粋な会話。そして性に対してオープンな雰囲気。それらからは異性に対してのくどいまでのリビドーというを感じることができない。なんてことない会話のあちこちに漂っている暖かさ。丁寧な言葉遣いのせいなのか、作品全体の雰囲気が非常に落ち着いてゆっくりとした時間の中にいるような気分にさせてくれる。急速に変化する現代に疲れた人は、読むと心穏やかになるだろう。

■ストーリー

暗く重たい雨雲をくぐり抜け、飛行機がハンブルク空港に着陸すると、天井のスピーカーから小さな音でビートルズの『ノルウェイの森』が流れ出した。僕は1969年、もうすぐ20歳になろうとする秋のできごとを思い出し、激しく混乱し、動揺していた。限りない喪失と再生を描き新境地を拓いた長編小説。

■感想
内容は決してのんびりしているわけでもなければ、静かでもない。親友の自殺や好意をもった人の突然の失踪など、実際はショッキングな出来事のはずだがそれを和らげるような文体がある。全体を通してやさしい雰囲気に満ち溢れており、現実世界では絶対に味わえないようなほんわかとした気持ちになれる。

本作を読む前は悲しい恋の話というイメージがあったが、上巻の段階では悲しさというものはあまり感じることができなかった。せつなさは多少含まれてはいるが、それは文章の雰囲気と主人公であるワタナベの何事に対しても動じることがない雰囲気で物語のピリピリ感というものは薄れている。しかしなんてことない日常の中でどのように人と触れ合うのか。どこか普通と違うワタナベの行動理念や気持ち。それらすべてを理解することはできないが、共感はできた。

青春時代にはあたりまえに存在する性に対する思い。本作ではエロさは感じないかわりに、その行為自体が、ある場合は当たり前のことであり、またある場合はとても神聖なもののように感じてしまう。外見的な描写がほとんどないというのも気になる部分だ。いったいこのワタナベという人物がどういった容姿をしているのだろうか。内面的にはわかった気持ちになったが、頭で姿をイメージすることが難しかった。

今後直子との関係がいったいどうなるのか、キッチリとした結論のようなものがでてくるのか。今のところ悲しさや切なさはほとんど感じることはない。この部分は下巻に期待すべきなのだろうか。

下巻へ



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp