ノルウェイの森 下 


2006.12.29 プラトニックからは程遠い 【ノルウェイの森 下】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
恋愛小説であればプラトニックな部分に焦点を当てるのが無難だろう。本作を純粋に恋愛小説として読むことができなかった。それはおそらく主人公のワタナベが直子や緑など様々な女の子と接する機会があるが、そこで登場するのが性的な部分だからだ。別にそれが悪いといっているのではなく、感じ方として感動したり切なくなったりはしない。直接的な性的表現が多いので、いやにリアルで現実的でありながら、登場人物達は話方や行動からするとどこか浮世離れしている。このアンバランス感が絶妙なのかもしれない。ひとつ間違えればただのエロ小説となるところを文学的にしているのは文体が大きな影響を及ぼしているのはわかる。なんだか大昔の話ではないのに、僕の中では本作の出来事が明治時代かそのあたりの出来事のようにも感じてしまった。

■ストーリー

あらゆる物事を深刻に考えすぎないようにすること、あらゆる物事と自分の間にしかるべき距離を置くこと。あたらしい僕の大学生活はこうしてはじまった。自殺した親友キズキ、その恋人の直子、同じ学部の緑。等身大の人物を登場させ、心の震えや感動、そして哀しみを淡々とせつないまでに描いた作品。

■感想
上巻を読み、特別な切なさや悲しさを感じることはなかった。下巻ではわりとそのあたりを期待していたのだが、上巻以上に直接的なエロ描写が増えていたのに驚いた。これが本作の売りのようにも思えてしまうほど、あちこちに登場する。恋人関係においては絶対に避けて通れない部分であることは分かっているが、それをあえて小説として焦点を当てる必要がないと普通は考える。しかし本作はそこをメインにすることで、より現実的にそしてリアルに感じさせようとしているのか。

多数の人物が登場するが、その中でも印象深い者が最後にはどうなったかなどほとんど語られない。投げっぱなしのやりっぱなしに感じてしまうのはそのせいだろう。直子の結末にしても、それでどこまで感動することができるのか、一番安易な方法をとったように思えたのだが、それですら僕は悲しくなったり、感動することはできなかった。

基本的には主人公のワタナベがどんな人物でどんな恋愛をして、直子との関係はどうなったかというのが語られている。それに対して感動するにはやはり完全にワタナベに対して感情移入する必要があるのだろう。ワタナベの思いが細かく語られているが、それを読むとどうしても共感することはできなかった。ワタナベという人物に対して不快には思わないにしても、良い印象はない。現代的な話のはずなのに、やけに古臭く感じるのも、このワタナベのキャラクターの影響が大きいのだろう。

かなり売れた本らしいが、いったいどのような人が喜んで読むのだろうか。普通の恋愛小説とは異なっており、素直に読むよりも裏を読んだり、隠された部分を想像しながら読まなければならないのだろうか。僕自身は特に感動も衝撃も悲しいという感情もなかった。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp