壬生義士伝


2007.9.22 何に対して義を貫いたのか 【壬生義士伝】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
どこに面白さを見出すのか。原作ではその感動部分よりも、吉村貫一郎と幕末の剣豪たちの戦いをドキドキしながら読み進めた。本作でも緊迫した一騎打ちの場面は見ごたえがある。しかし、原作と同様、本作も基本は義に生きる侍をベースとして泣かせようとしている。どうもその流れになじむことができなかった。金に意地汚いが真の侍として生活する吉村。最後の場面も吉村の語りと共に泣けてくるはずだが、一切そんなことはなかった。どうもそこに至るまでの盛り上がりにかけ、何に対して義を貫いたのかが曖昧だった。

■ストーリー

舞台は幕末の京都、東北出身の浪人、吉村貫一郎(中井貴一)が新選組に入隊してきた。剣の腕は一流ながら、何かと金に執着し、命を惜しむこの奇妙な男に、同志の斎藤一(佐藤浩市)は憎しみと興味を抱く。吉村は故郷の家族を養うため脱藩し、仕送りを送っていたのだ。しかし、やがて倒幕軍が優勢となり、新選組はジワジワと追い詰められていき…。

■感想
主演の吉村貫一郎を中井貴一が演じたのはすばらしいと思う。剣の腕は一流、しかしふとしたところで見せる金に対する意地汚さ。敵と相対した場面での凛とした表情と、金をむしんするときの、なんともいえない情けない表情は絶妙かもしれない。これほど硬軟使い分け、原作のイメージを壊さないのはすばらしいの一言につきる。佐藤浩市が斉藤一というのは少し意外な感じがした。原作を読む限り、もっと冷徹なイメージをもっていた。ちょうど無表情の中井貴一とかいいのかもしれない。それ以外には沖田を演じていた堺雅人は、あのニヤケながら恐ろしいことをやりそうな雰囲気はぴったりかもしれない。

キャスト的には何も問題はなく、演技もすばらしいと思う。血生臭い戦いだけでなく、吉村の金に対する執着理由もしっかりと描けていたし、わかりやすかった。ただ、最後の結末だけはなぜかしっくりこなかった。本作のほぼ三分の一を費やしてまで語りたかったのはいったいなんだったのだろうか。ボロボロになりながら、脱藩した藩に出戻る。ここに対してどういう感情をもてばよいのか。金に汚いのは家族のため、戦うのは侍の精神。では、生に執着するのはなんのためなのだろうか。家族のためであれば最後の場面はちょっと解せない。

原作どうよう、最後の独白に随分と力をいれているが、泣けなかった。南部なまりの言葉で、懺悔とお礼を繰り返す吉村の姿を見ると、哀れみというよりも、この状況以外いくらでも生きる方法があったように思えて仕方がなかった。なんとなくだが、最後の特攻の場面など、侍としての死に場所を求めているようにも見えた。しかし、それでは家族に対する義というものを守れないことになる。

原作もしっくりこなかったが、忠実なつくりの本作も同じような感想をもってしまった。



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