地下鉄に乗って 


2007.12.12 ハッピーエンドでは終わらない 【地下鉄に乗って】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
映画版を先に見ているため、どうしても登場人物を配役そのままのイメージで読んでしまう。タイムスリップして父親と出会うという本作。映画版では気づかなかった伏線が、原作ではかなりはっきりと描かれている。そして、結末の深刻さは映画もそうだが、本作もかなりのものがある。ハッピーエンドで終わらないことに意義があるのかもしれないが、誰一人として幸せにならないような結末はどうなのだろうか。本作を読むと、映画版がかなり原作に忠実に作られているということがわかった。

■ストーリー

永田町の地下鉄駅の階段を上がると、そこは30年前の風景。ワンマンな父に反発し自殺した兄が現れた。さらに満州に出征する父を目撃し、また戦後闇市で精力的に商いに励む父に出会う。だが封印された“過去”に行ったため……。思わず涙がこぼれ落ちる感動の浅田ワールド

■感想
タイムスリップした世界を描くとしたら、実際にその時代に生きた人以外は、明確に映像化されている映画の方がなじみやすいだろう。最初に映画版を見たおかげで、昭和初期や戦時中の雑多な雰囲気を十分イメージすることができた。そして、その中でひときわ輝く父親の若い姿。ほぼ同年代となり、父親と友情のようなものをきずいていく。映画版以上に若いころの父親と現在の父親が乖離しているように感じられた。

タイムスリップに対する理不尽さやご都合主義は、何かを伝えたいという言葉ですべて許されている。しかし、結局何を伝えたかったのだろうか。大事な人がいなくなり、父親の本心を知り、自分の未来を考える。このタイムスリップにどのような必然性があり、衝撃的事実を含んだ結末。最終的には誰も幸せになっていない。そして、父親やミチコとの関係を考えると、
切なくて泣けてしまう。血筋に関する問題はそれだけ衝撃も大きい。

タイムスリップした過去も現在も地下鉄が鍵となっている。寂れた地下鉄のホームは想像以上に寂しく、悲しい気分にさせる何かがある。真次が最初に過去に行くきっかけとなった地下鉄には、物悲しさを象徴するような雰囲気を感じられた。本来ならば時代と共に進化していく地下鉄が、ここだけ、なぜか過去のあるひと時からまったく変化しないような聖域のようにも感じられた。

リアルに父親との関係に悩んでいる人は、本作を読むことで、父親に対して少し変わった見方ができるかもしれない。



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