魔笛 


2008.1.15 現実の事件の真相をイメージした 【魔笛】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
某宗教団体の事件を思い起こさせる内容。強烈なまでにリアルであり、現実に本作のようなことが起きていたのかもと錯覚させるほど、読者に与えるインパクトは強烈だ。作者の作品は最初に強烈な印象を残すものが多い。深紅もそうだが、最初に残酷なまでの事件が起こり、そこから物語が派生していく。本作は最初の事件だけにとどまらず、継続して、爆弾によるテロが起こる。爆弾処理の緊迫感もさることながら、スパイに入ったはずの者がしだいにマインドコントロールされていく様をリアルになぞるような流れはすごい。うなるほどのできばえだと思う。

■ストーリー

白昼、渋谷のスクランブル交差点で爆弾テロ!二千個の鋼鉄球が一瞬のうちに多くの人生を奪った。新興宗教の教祖に死刑判決が下された直後だった。妻が獄中にいる複雑な事情を抱えた刑事鳴尾良輔は実行犯の照屋礼子を突きとめるが、彼女はかつて公安が教団に送り込んだ人物だった。

■感想
リアルで生々しいマインドコントロールの描写。十年以上前の事件を鮮明に思い出させるほど、強烈な勢いを感じる作品だ。某宗教団体の事件をなぞるように、さらには隠された真実を暴くかのごとく、物語は形作られている。あの事件が現実に起こらなければ、本作のような内容はあまりに現実離れしすぎていると感じるだろう。しかし、それが現実に起こっているだけに、事件の真相を隠すような公安組織の思惑など、ただの創作とは思えないほどのリアルを感じてしまった。

テロの実行犯である照屋礼子。公安から送り込まれたスパイでありながら、教祖に取り込まれる。スパイとして活動しながら、教団の人間としてテロを実行していく。すべてが照屋礼子の思惑通りに進み、手のひらで踊らされる警官たち。この照屋礼子の有無を言わさぬ悪役ぶりが、物語を緊迫感溢れるものにし、ありきたりな犯罪ミステリーに終わらない作品となっている。

照屋礼子のリアリティに比べると、鳴尾の人物像には疑問をもたずにいられない。なぜ藤子と獄中結婚しようと思ったのか、そして、藤子が犯罪者の心理を理解し、事件の真相をあきらかにできるのはなぜか?それなりの理由は語られてはいるが、それほど説得力があるようには感じなかった。事件の流れがリアルで、現実の某宗教団体にも公安のスパイがいたのかもしれないと思わせる流れに比べると、鳴尾と藤子の関係は色あせたように感じた。

冒頭の圧倒的な残虐描写は深紅に通じるものがある。そして、深紅同様、物語にのめりこみ、最後までテンションを下げることなく読み続けることができた。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
*yahoo.co.jp