2008.2.23 空を飛びたい、ただそれだけ 【クレィドゥ・ザ・スカイ】
■ヒトコト感想
「スカイ・クロラ」シリーズの完結作。スカイ・クロラを読んだ瞬間、このシリーズの虜になったのだが、巻数を重ねるごとに段々とその情熱は薄らいできた。切れ味鋭いドッグファイトを期待していたのだが、物語は意外な展開へと流れていく。最初の流れからすると、激しい戦闘機の戦いに終始するかと思いきや、ギルドレという特殊な人間に対する思いが語られている。ライバル的あつかいのティーチャやその他魅力的な登場人物が多数登場したが、それらに決着をつけることなく終わっている。なんだかこのまま終わるのはとてももったいないような気がしたが、これが作者のポリシーなのだろう。作品全体がかもし出す鋭利な雰囲気は本作でも失われていない。
■ストーリー
空に焦がれ、空で生きることを望む「僕」。これが僕たちの場所、あれが僕たちの墓――飛ぶために生まれてきた子供たちの果てしない物語、「スカイ・クロラ」シリーズついに完結!
■感想
圧倒的な力をもつエースパイロット、カンナミ。カンナミの秘密が語られながらギルドレの秘密に迫る。冒頭の流れからすると、本作でシリーズが完結するとは思えないほど、のんびりとした展開であった。宿命のライバル的存在であるはずのティーチャやその他登場人物たちとすべて決着をつけるには、あまりにページ数が少ないのではないかと心配になった。このシリーズの集大成ともいえるはずの本作が、終盤までまったくドッグファイトの描写がないことにも、本作の特殊性をうかがい知ることができるだろう。
一人称で語られた序盤。いったい誰の描写なのか混乱することがあるかもしれない。クサナギが主役であった前作までと明らかに雰囲気がことなっている。おぼろげながらに見えてきたカンナミとクリタの関係性。謎で言えば本作を読むことでだいたい理解できると思う。ただ、誰もが求めるような切れ味鋭いドッグファイトというのは期待しないほうがよい。特に、カンナミの空を飛ぶということに対する強い思いが感じられる描写はあるが、ギルドレの秘密に対してのインパクトの方が大きく感じてしまう。
淡々と語られる内面描写。そんな中であっても大空を飛ぶ楽しさというのは、シリーズ中では本作が一番伝わってきたかもしれない。敵と戦うというよりも、純粋に空を飛ぶということに喜びを感じるカンナミの思いが、読んでいる者にまでしっかりと伝わってきた。広大な原っぱを滑走路代わりとし、ゆっくりと飛び立つ瞬間が、目の前に広がってくるようだった。
シリーズとしては完結したが、まだまだ気になる部分は沢山ある。もしかしたら外伝的作品がでて、魅力的な登場人物たちとしっかりと決着をつけてくれるのかもしれない。シリーズが終わってしまった寂しさよりも、新たな広がりを感じさせる終わり方だったので、期待感の方が大きい。
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