工学部・水柿助教授の逡巡 


 2008.7.12  売れっ子作家だけの特権 【工学部・水柿助教授の逡巡】  HOME

                     

評価:3

■ヒトコト感想
前作の日常からずいぶん間が空いたが、本作はまたまたずいぶんと自由な作品だ。水柿助教授=森博嗣というのは確かなのだろう。どうやって小説家になったのか、どんな生活をしているのか、二足のわらじというのは可能なのか。そして、一番興味がある、どの程度稼いでいてどのような金の使い方をしているのかという部分が赤裸々に語られている。びっくりする部分とへぇーと感心する部分もある。作者のプライベートをのぞき見るようで非常に興味がわくのだが、それ以外があまりに自由だ。くだらない親父ギャグに笑えないユーモア。なんだか、ここまで売れっ子になると何でもありなんだなぁと、商業主義の側面を見たような気がする。

■ストーリー

最初にお断りをしておくが、この作品は小説である。さて水柿君、この巻で予想どおりN大学工学部助教授のままミステリィ作家になる。きっかけはとくになく、なんとなく書き始めたら、すぐに書き上がった。それをミステリィ好きの妻・須摩子さんに見せたが、評価はあまり芳しくない。それで出版社に送ってみたら、なんと、本になることになり、その上、売れた!時間があれば小説を書き続ける毎日、そして幾星霜、水柿君は、すっかり小説家らしくなったが…。若手研究者は、こうして小説家になった。

■感想
大学助教授と小説家という二足のわらじ状態の作者。普通に考えると、ものすごいペースで小説を量産し続ける作者が助教授の仕事をしているとは思えなかった。しかし、本作を読むことで、それはまぎれもない事実で、作者はある意味天才なのだということを思い知らされた。一時間に何文字書けるから、単純計算で一日2時間、20日で一冊の本が書ける。これをはっきりと言い切り、実現する作者はすごすぎる。正直、作品を生み出す力については紛れもなく天才だと思う。その作品の質は度外視すればの話だが。

読者の一番興味がある部分であろう、収入や支出の部分も何故かあっさりと暴露している。それも予想通り、一般人には想像のできないような収入と支出だ。それをまったく嫌味なしにサラリと語るあたりは、本人が作中で語っているとおり、金に対する執着があまりないのだろう。普通ならば絶対にかけないようなことをあっさり書く。謎に包まれた小説家の生活を読むことができる部分でいうと、本作にはものすごい価値があるような気がする。

それにしても、出版社は売れる作家には何も言えないのだろう。この自由な流れはどうなのだろうか。小説といいながらも小説の形をとっていなかったり。合間合間にくだらない親父ギャグや笑えないユーモアがちりばめられている。日常を描いているといっても、ここまで自由にしてよいものだろうか。小説家の生活というものがどんなもので、日々どのようなことを考え、何に興味を持っているのか。森博嗣の大ファンであれば、間違いなくはまることができるだろう。それ以外は…。

っというか、森博嗣ファン以外は本作を読むことは無いような気がしてならない。



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