カカシの夏休み 重松清


2008.2.2 何気ないヒトコトにドキリとする 【カカシの夏休み】

                     
■ヒトコト感想
相変わらず作者の作品は家族や教育をテーマにしたとても重い作品が多い。本作も、自分が教育や家庭とは今のところ無縁の生活にいるはずだが、とても読んでいて苦しくなった。本作に登場する主人公たちに同情し、そしていつ自分がそうなるかもわからない現実に戦々恐々としながら読んでしまった。ノスタルジックな気分に浸る教師や、きれる子供に振り回されるカツラの教師。そして、イジメの当事者となった弟を持つ姉。何かに問題があるからそうなったのではなく、ちょっとしたきっかけで起きてしまう出来事。感情移入はできないが、この苦しさを味あわせるのは作者の筆力なのだろう。登場人物の何気ない一言にドキッとしたりもする。

■ストーリー

ダムの底に沈んだ故郷を出て二十年、旧友の死が三十代も半ばを過ぎた同級生たちを再会させた。帰りたい、あの場所に―。家庭に仕事に難題を抱え、人生の重みに喘ぐ者たちを、励ましに満ちた視線で描く表題作始め三編を収録。現代の家族、教育をテーマに次々と話題作を発信し続ける著者の記念碑的作品集。

■感想
教師という仕事は夏休みや冬休みがあり、普通のサラリーマンからするとうらやましい職業なのかもしれない。しかし、いつまでたっても教える相手は十代後半。その間に、自分だけがどんどんと歳をとっていく。ベテランになればなるほど生徒との年齢さを感じることになる。プライベートがないに等しいように感じてしまう教師という職業。本作を読むと、つくづく自分が教師でなくてよかったなどと思ってしまう。それほど辛く、苦しい立場のように感じてしまった。

主人公が三十代であったり四十代であったり、親父世代を代弁するような流れなのも作者の作品の特徴だろう。ごく平凡な生活で、同年代であれば、大多数が何かしら共感をえることができる雰囲気。それだけに、直面する悩みや苦しみが、やけにリアルに感じ、そして解決しがたい問題であるということに、頭の中がぴりぴりと痛むような感覚すら覚えた。いずれ自分も家族を持ち、そして同じようにニュータウンで平凡な暮らしをおくるのかもしれない。さらには教育や家庭で同じような悩みをもつかもしれない。想像すると、今から胃が痛くなりそうだ。

本作に収録されている三編のうち、最後の作品だけ少し毛色が違っている。イジメの加害者あつかいをされた弟とその家族を取り巻く環境についての話なのだが、今のマスコミを含め行き過ぎた報道と、ある種の報道被害をにおわせる流れになっている。いじめに対してピリピリとした雰囲気を学校全体は持っているのかもしれない。事なかれ主義で、実際にイジメがあったとしても表ざたにはしないのかもしれない。親としても自分の子供だけは違うと思いたいのだろう。加害者側にスポットが当てられているが、なぜか被害者側の家族の心境ばかりを考えてしまった。

本作をリアルに家庭を持つ三十代から四十代が読んだらどう思うのだろうか。自分たちはそうじゃないと安心するのか、それともいつ訪れるかわからない恐怖におびえるのだろうか。




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