2005.12.1 映像が目に浮かぶようだ 【女王の百年密室】
■ヒトコト感想
SFなのかミステリーなのか微妙なラインの作品。
読んでいてイメージしたのは中世ヨーロッパの王宮と、
その周辺の街に生活しているような映像が浮かんできた。
その中で外部からの訪問者であるミチルだけがやけにハイテクに包まれた宇宙服を着ており、
場違いで浮いているようなイメージもうかんできた。
本作が森博嗣の作品ということで女王で名前が”デボウ・スホ”とか”ミチル”などと言われるとどうしても
「すべてがFになる」を思い出してしまう。作者もそのイメージが少なからずあったような気がする。
随所にそれらしい印象を受ける部分が多数あったので。
■ストーリー
2113年の世界。小型飛行機で見知らぬ土地に不時着したミチルと、
同行していたロイディは、森の中で孤絶した城砦都市に辿り着く。
それは女王デボウ・スホに統治された、楽園のような小世界だった。
しかし、祝祭の夜に起きた殺人事件をきっかけに、完璧なはずの都市に隠された秘密と
ミチルの過去は呼応しあい、やがて―。
■感想
本作は作者が考える理想郷なのだろうか、作中に人の生を握る者が神になれるというような記述があり、
その理由も説明されていたのだが、確かにかなり説得力がある。
たとえ誰かが殺人を犯しても被害者をすぐに蘇生させることができ、
その犯人に対しては事故や病気で死んだ場合は蘇生させずに永遠の無となる。
それならば殺人の意味もなくなり、犯罪もなくなる。
確かにそれができればパーフェクトなんだろうが、それを実現しようとしたのが本作なのかもしれない。
ちょっと宗教的要素も含まれているかもしれないが、ある種の未来に対する希望を糧に生きている。
なんとなく来世の幸せを願うどこぞの宗教のような印象を受けた。
女王というタイトルからイメージするのはどうしても森作品だと
真賀田四季を思い出してしまう。
まったくの別物なのだろうが、随所にそれをイメージさせる部分がある。
例えば主人公のミチルという名も、「すべてがFになる」では重要な名前であったし、
デボウという名前に似たデボラとシステムも登場している。
これは恐らく意図的なのだろうが、作者がどういう意図でそうしたのかを読みとることはできなかった。
SFに多少強引な気がするがミステリー風味を追加している。
この作品にはミステリーが必要だったのかちょっと疑問に思った。たとえミステリー部分がなくとも
十分に物語としては成立し、スッキリと収まると思った。
ミステリーを含めるのは作者のこだわりなのだろうか。
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