硫黄島からの手紙


2007.7.1 外国人監督が撮ったという衝撃 【硫黄島からの手紙】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
戦争映画は数あれど、外国人監督が撮った映画でこれほど日本人の心にしみ入る作品を撮った監督がいただろうか。戦争における日本人独特の考え方であったり、その時代における日本の雰囲気などの的確な表現。昔からよくある侍魂を持つ日本人としてのステレオタイプな描き方ではなく、必死に生きようと、もがき苦しむ若者がいるということもしっかりと描いている。そして、日本人の目線で描かれた本作。登場するアメリカ兵をすべて悪や正義として一律に描いておらず、場面場面によって戦争の厳しさというものを表現するため効果的につかかっている。外国人監督ということに改めて驚かされる作品だ。

■ストーリー

1944年、陸軍中将・栗林が硫黄島に降り立った。本土防衛の最後の砦の硫黄島だったが、場当たり的な作戦と非情な体罰により、兵士たちは疲労と不満が渦巻いていた。ところが栗林は違った。アメリカ留学の経験があり、敵国を知り尽くした男は、体罰をやめ、島のすみずみまで歩き、作戦を練りに練った。そして米国が来襲。硫黄島は5日で落ちると予想されていたが、壮絶な闘いは36日間にも及んだ。しかし、その闘いで兵士たちは何を思ったか。それは61年後に掘り起こされた、出されることのなかった家族への手紙にしたためられていた…。

■感想
戦争の虚しさや愚かさを表現する作品はいくらでもある。リアルな描写の作品もいくらでもある。日本人的視点からいうと男たちの大和も似たような部類になるのだろう。戦争に対する思いは、この時代であれば一つの目的のために一致団結するというのが普通だろう。しかし、本作はそれを根本から覆すように、戦争に対してやる気もなければお国のために死ぬ気もない。本当の本音で表現されたその時代の若者の思いのように感じられた。

本作はそんな若者の生への執着と共に、指揮官である栗林の思いも描かれている。指揮官として硫黄島に降り立ち覚悟を決める栗林。いくら指揮官と言えども人の子。家族を思い故郷を懐かしみ、そして昔の思い出にひたる。立場的違いはあれど、お互い生への執着というのは相当なものがあるはずだ。それが表に出てくるまでに、社会的立場や部下の手前、思いとは逆への表現となっている。西郷よりも栗林の苦悩というのを感じずにはいられなかった。

ほぼ全編日本人のみ登場し、ヒーロー的人物も登場する。逆にアメリカ人は特別印象に残る人物は登場せず、下手すると残酷な印象を与えるだけかもしれない。この構成の作品をクリント・イーストウッドが撮ったというのがかなり驚きだ。アメリカ的ヒロイズムに溢れた作品か、もしくはアメリカ兵は天使で日本の上官は悪魔だという流れになるのかと思っていた。かすかにそれを感じる部分は、栗林が必要以上にアメリカかぶれだったということくらいだ。

本作によって戦争を知らない世代にも硫黄島は確実に浸透したと思う。そしてそれを
撮った監督がアメリカ人だということが結構な衝撃だ。



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