百年迷宮の睡魔 森博嗣


2006.1.23 器と中身、どちらが大事か 【迷宮百年の睡魔】

                     
■ヒトコト感想
前回の女王の百年密室からの続きもので、前作を読んでいないと理解は難しいだろう。ミチルとパートナーであるロディーの関係が明らかになった前回から、今回ではそれを逆に利用して様々な場面で活用している。ミチルが行くところトラブルありなのか、トラブルがミチルを呼んでいるのかミチルという一種のウィルスのようなものが入り込むことで平穏であった「イル・サン・ジャック」に変化が訪れる。現在の技術では到底不可能なことも本作の中では実現している。非常に恐ろしいと思ったのだが人というのは何をもって人とするのか、そんなことを考えさせられる作品だ。今自分が考えていることはもしかしたら誰かの思考かもしれないと・・・。

■ストーリー

現代より1世紀ほどの未来。主人公でジャーナリストのサエバ・ミチルと、パートナーのロイディが訪れるたのは、海原に浮かぶ城塞都市「イル・サン・ジャック」。一夜にして海に取り囲まれたという伝説があるこの街は、女王メグツシュッカのもと、外部との接触をほとんど拒否している謎めいた街である。宮殿を取材で訪れたミチルたちの前で、僧侶クラウドの首なし死体が発見され、ミチルが犯人と疑われてしまう。

■感想
ミチルの体と思考は別な存在だということが前作で明らかになり、ロディというパートナーの存在なくしてミチルは存在することができない。人間として活動する器でもある体とそれを操作する頭脳が別に存在する。確かにこれが実現できれば非常に有効なことで頭脳のみ安全な場所に確保することでボディの買えはいくらでも用意することができる。それを体言しているのがミチルでありロディということになる。

イル・サン・ジャックでの実験的な試みでウォーカロンを人間と思い込ませることやボディと頭脳の分離。それを行う環境としては下界との情報は遮断する必要がある。そこにミチルという異分子を入り込ませ、変化を起こさせるその思考にいたった女王のメグツシュカの考えはとても先進的なのだがどこか破滅的なものも感じる。

前作のデボウもそうだが今回のメグツシュカも最終的には何を目的としているのかが明確になっておらす、目的のために手段を選ばないような人物ならばある程度理解はできるが、目的が不明ならばその行動原理も理解できず、どこかフアフアした不思議な感覚に陥ってしまう。

伏線として次につながるのか不明なのだが、ミチルが一年もの間眠り続けたことや、デボウとメグツシュカの関係など明らかになっていない部分が多々あり、それは三部作の最終作で明らかになるのだろうか。

人が人である意味を考えさせられるのだが、器と中身どちらが重要かという問いには確実に答えることはできない。



おしらせ

感想は下記メールアドレスへ
(*を@に変換)
pakusaou*yahoo.co.jp