蛍・納屋を焼く・その他の短編 


2007.3.6 過剰な期待はしないに限る 【蛍・納屋を焼く・その他の短編】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
蛍はノルウェイの森の元となった作品なのだろう。短編となってはいるが、思ったほどノルウェイの森のテイストは失われていない。ただし確実に恋愛の要素は省かれている。納屋を焼くはそれなりに蛍に似通った雰囲気で村上春樹らしいといえるかもしれない。その他の作品は正直言うとほとんどわけがわからなかった。残っていた短編をそのまま丸ごとなんでもいいから載せてしまえという勢いだけのようにも感じた。全体的に作品自体は短くサラリと読めるが、内容も同じようにサラリと頭から抜けてしまう

■ストーリー

夏が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった…。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

■感想
ノルウェイの森の原型といわれている蛍。冒頭の雰囲気はまさにそのとおりだろう。相変わらずのスタイルはそのままなので村上春樹ファンならば十分楽しむことができる。にわかファンが読むならば違いにがっかりするだろう。過剰な期待はしないに限るが、それでもノルウェイの森のかすかな香りを感じることができるので続きの展開を期待するが、ぶった切るようにばっさりと終わってしまう。

作者の登場人物たちはほとんどが仕事に対しては冷めた目で見ている。あくせく働くのではなく、自由気ままに過ごしている。それでいて金に不自由することもない。「納屋を焼く」の登場人物も似たようなものだ。現実的に考えてそんな人はごく一部だとはわかるが、どうしてもあこがれてしまう。登場人物たちの無気力感には魅力を感じないが、自由気ままな生活というのにはあこがれてしまう。一見何不自由ない生活から納屋を焼くという行動が出てくるのも少し納得ができるかもしれない。

その他の短編。特にドイツ関係の短編はまったく意味がわからなかった。もう一度読んで理解しようという気持ちさえ起こらない。いったいどのような意図があるのか、それをはっきりと感じ取れるのは、よっぽどのハルキストか作者自身しかいないのではないだろうか。どれだけ感受性と想像力が豊かであってもこの短編を理解するという作業は難しいと思った。

コアな村上春樹ファンならば読んでもいいと思うが、にわかファンはやめた方が無難かもしれない。



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