半島を出よ 下 


2008.1.14 シノハラやタケチはいないのだ 【半島を出よ 下】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
北朝鮮の反乱軍に支配された福岡。学生時代、福岡に住んでたい経験があるため、情景描写をすんなりと受け入れることができた。自分が知っているあの場所が物語りの舞台となっていると思うと、よりリアル感を得ることができた。反乱軍たちに立ち向かう若者たち。それは日本国民のためを思っての行動ではなく、ただ、やりたいからやるだけという、無秩序感。相手が巨大であればあるほど、少人数でのゲリラ的作戦は興味深く読むことができた。本作は、平和ボケした日本人に問題定義をしながらも、結局明確な答えは出していない。現実にはシノハラやタケチはいないのだ。リアルな現実と虚構を混同してしまうほど、リアリティにあふれた作品だ。

■ストーリー

さらなるテロの危険に日本政府は福岡を封鎖する。逮捕、拷問、粛清、白昼の銃撃戦、被占領者の苦悩と危険な恋。北朝鮮の後続部隊12万人が博多港に接近するなか、ある若者たちが決死の抵抗を開始した。

■感想
北朝鮮の反乱軍に挑む若者たち。自分たちの得意分野を活かし、綿密な計画をたて行動する。集団行動が苦手な若者のはずが、いつのまにか一致団結し、仲間のことを思いやる普通の若者になっている。仲間が死ねば悲しみ、コリョを倒すことに心血を注ぐ。いつの間にかその行動すべてに共感をもち、虐げられた日本人のカタルシスを開放するのを待つように読み進めてしまった。そして、希望通り、大きなカタルシスを得ることができる。

本作は、ストーリー的に優れているのはもちろんだが、その膨大な情報量にも驚かされる。細かな爆弾一つにしても、すべて細かく調査し、細部まで手を抜くことなく描写されている。なんだか、この雰囲気は、ウンチクの王様である京極夏彦に近いものを感じてしまった。ウンチク自体、しつこく小難しいものではなく、できるだけわかりやすく理解しやすいように、噛み砕いて描かれているのも良かった。この緻密さが物語りのリアルさをさらに増幅させているのだろう。

九州を押さえられ、あとは12万人が到着するのを待つばかりだと思われた上巻までの展開。そこから急転直下で物語は流れていく。終わらせ方としてはまさにベストなのだろうが、これを現実とリンクさせて考えることはできない。本作が提示した問題が、もし現実に起こったのならば…。なんてことを考えると、ただ指をくわえて12万人が到着するのを見ているしかないのだろうか。物語としての終わらせ方は秀逸だが、現実的ではない。それはつまり、回避できないということなのだろう。

リアルなだけに、現実では起こりえないことだと自分を納得させるしかない。そうでもしなければ、不安で夜も眠れなくなるかも?



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