半落ち 横山秀夫


2007.5.28 どうでも良くない二日間 【半落ち】

                     

■ヒトコト感想
映画では空白の二日間に対する必然性を感じることができず、作品全体として緊迫感がないように感じられた。見た当初は自白した人物のその後になんの興味も持つことができなかったが、本作は違った。なぜそこまで空白の二日間にこだわるのか。そのあたりが多数の登場人物それぞれの利害関係と密接に関わり、納得のいく展開だと思えた。よく考えれば、事件後の空白の二日間という最初に映画を見たときの”そんなことどうでもいいじゃん”という印象を持たせないのはまさに本作の真のすばらしさだろう。

■ストーリー

「妻を殺しました」。現職警察官・梶聡一郎が、アルツハイマーを患う妻を殺害し自首してきた。動機も経過も素直に明かす梶だが、殺害から自首までの二日間の行動だけは頑として語ろうとしない。梶が完全に“落ち”ないのはなぜなのか、その胸に秘めている想いとは―。

■感想
警察、検察、新聞記者に裁判官。それぞれの立場でお互いの利害関係が交錯するなか一つの事実に近づいていく。本作の魅力の一つでもある、登場人物の立ち位置の違いによって事件の質が変わってくるということだ。皆真実を追い求める気持ちはあるが、それぞれの立場からだんだんと真実を捻じ曲げていく。ある一人が捻じ曲げた真実を別の一人が暴露し、それに影響を受け別の一人が真実に近づこうとする。立場の違いによってこうも事件に対する関わり方が変わるのかという驚きと、組織という大きな歯車の中で必死にもがき苦しむ姿が印象に残った。

正直、映画の結末を忘れていた。本作を読んでいる間は初見と同じように結末を知らずに読み進めた。そのかいあってか、終始緊迫した状態で真相はいったいなんなのだろうかという登場人物たちと同じ気持ちで読むことができた。ただ、結末を読むとこれを必死で隠し続けた梶の気持ちが少しわからなかった。自殺を思いとどまるというのはわかる。他人のために生きる必要があるというのもわかる。しかし空白の二日間の行動を警察に言ったところでそれほど大きな影響がないように感じた。

結末に多少納得いかない部分はあるが、映画よりも作品全体の緊迫感があるように感じた。映画のキャストを思い浮かべながら本作を読んだというのもあるが、梶の顔はもう寺尾聰以外には考えることができなかった。激しい殺人事件やサイコミステリーなどと違い、陰惨な表現もなく、作品的には落ち着いたトーンだ。しかし、相変わらず組織内部の軋轢は激しいものがある。

横山秀夫に組織内外の軋轢を描かせたら右に出るものはいないだろう。




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