花よりもなほ


2007.3.5 侍らしくない侍 【花よりもなほ】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
すべてがすべてステレオタイプの侍ではない。どの時代にも時流にのれず、はみ出すような侍もいたのかもしれない。そんな、武士の一分とは対極にあるような作品。武士が主役だが剣の腕はからっきし。今までの山田三部作などでは主人公は心も侍ならば剣の腕も立つ。まさに武士の中の武士というような感じだった。それと比べると作品のトーン自体も違うが、主人公の考え方も違っている。それが不愉快かというと、そうではない。それもありなのではないかと思わせる雰囲気がある。おんぼろ長屋に住む住人たちの緩い生活。ぴりぴりした緊張感はないが、やさしさやほほえましさ、そしてすべてをステレオタイプで考えるべきではないというメッセージを感じた。

■ストーリー

元禄15年の江戸で、青木宗左衛門(宗左)は父の仇を追って、信州から上京した若侍。しかし、剣の腕は立たず、寺子屋で算術を教えていた。そんなある日、仇を見つけた。しかし、長屋の人々のとの心地よい暮らしになじんでしまった彼は、仇が妻子と幸せな生活を送っているのを見て“仇討ちとは何だろう”と考え始める。そして、彼が出した結論は長屋の人々を巻き込む騒動に発展していく。

■感想
主役の青木宗左衛門の駄目っぷりはもしかしたら演技で、実は最後には剣の達人の姿を現すのかもしれないと中盤を過ぎるまでずっと思っていた。父親の敵との対決シーンで今まで隠された力を存分に発揮する。そんな場面を予想していたが、その予想は的外れだと気づいた。最後の最後まで侍らしい対決シーンなど登場せず、ひたすら長屋の住人たちとのふれあいが描かれている。

長屋の住人たちは一癖も二癖もあり、それぞれに特徴的なエピソードがある。家賃を払わない住人たちに苦労する大家。そして宗左衛門にたかる住人たち。純粋な武士のあだ討ち物であればまったく必要のない部分であるが、本作にはとても重要な意味を持っている。コメディーに傾きながらも、かろうじて踏ん張っている。

二時間近くある本作の中でひとつ冗長だと感じたのはそえ吉と大家の嫁の部分だ。それがどれほど宗左衛門のあだ討ちに繋がる部分があるのだろうか。長屋の住人たちとのふれあいから宗左衛門があだ討ちの無意味さを知ったように、そえ吉からは武士の無力さを思い知らされたのだろうか。それとも幼いころのそえ吉のエピソードが親子の関係に繋がっているのだろうか。そのへんが少しわかりにくかった。

半分コメディだが、心優しく侍魂を持った剣の達人が活躍する時代劇に飽きた人は本作を見るとまた違った意味で楽しめるかもしれない。



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