ハゲタカ2 下 


 2008.5.4  日米買収対決 【ハゲタカ2 下】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
リアルに現実の企業をモデルにしているとはっきりわかる描写。フィクションと言いながら、綿密な取材によって描く作者だけにかなり真実味のある内容なのだろう。前作から一変、今回は鷲津がどのようにして復活していくかをつぶさに観察していくような流れだ。巨大企業を買収するというリスク、そして、強力な力を持つ軍事ファンド。アメリカ対日本という図式は、ここ最近の企業の買収騒ぎなどを見ると必ず司法や国がしゃしゃり出て日本に有利な結果を出しているような気がする。本作を読むと、すべてが架空のことだとわかっていないがらも、日本に鷲津という人物がいれば、どのように変わっていたのか。そればかりを考えてしまう。

■ストーリー

鈴紡の次に、鷲津が狙いをつけたのは、巨大電機メーカー・曙電機だった。曙は買収阻止と再建の切り札として芝野を頼る。再び相対する二人。攻める鷲津、守る芝野、さらにアメリカの有力ファンドも買収に参入し、事態は混沌としていく。

■感想
上巻を読んだ感想としては、下巻ではどれだけの血なまぐさい戦いが繰り広げられるかと思っていたが、意外にもまったく流血の事態が訪れることはなかった。激しい買収合戦において、何が一番重要なのか。お互いきわまった実力を持ったファンド同士の戦いであれば、そこにミスは存在せず、あるのは情報戦だけだ。本作では、この情報戦が全てであり、日本の首相やアメリカの大統領までも巻き込んだ激しいスキャンダル合戦をする。現実ではここまでいかないにしても、要人を引き入れた方が買収合戦に勝つというのはあるのだろう。

敵対的買収において、もう一つ本作でしっかりと描かれているのは経営者の懐柔だ。買収する側される側、どちらの立ち位置にいるとしても、経営者の理解というのはかなり重要な位置を占めているというのがなんとなくわかってきた。ただ、本作に出てくる企業では素晴らしい経営者もいれば、過去の栄光にしがみつく経営者もいる。このモデル企業の経営者がそのまま、そんな経営者だとは思わないが、衰退していく企業には経営者の影響がとても大きいような気がした。

企業買収の激しさと老舗企業の没落を描いた本作。どんな企業でもその気になればいくらでも買収できるという言葉のとおり、その気になればマイクロソフトだろうと買収できてしまうのだろう。しかし、前作でも思ったことだが、買収すればそこで全てが終わりなのだろうか。一番重要なのは買収後、企業を売ったときに利益を得ることができるだけの企業に育てるということなのだが、それらはほとんど描かれていなかった。かろうじて上巻にそれらしい描写があったのだが…。ただ、買収をテーマとした本作にはそのあたりは冗長な部分なのかもしれない。

大企業のドロドロとした部分だけでなく、一社員の境遇も描いている。買収の結果、リストラされた社員。実は読者にとってはこの社員の気持ちが一番身近な部分なのかもしれない。



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