GOTH 僕の章 乙一


2006.3.27 心が病んでいるのだろうか 【GOTH 僕の章】

                     
■ヒトコト感想
「僕」という一人称がポイントだ。前作同様、相変わらず残酷な場面は多数登場する。その残酷なことを平然とやってのける物語の登場人物に異常さを感じながらも、それがさも当たり前のように描かれているので、際立った嫌悪感などは感じない。この「僕」という言葉に何回騙されたことか。ミステリーの王道的な手法を使って、読者を煙に巻いているのだが、もともとの残酷な文体が物語をより複雑にしている。前作、本作と続けて読むと、この作者はどこか心が病んでいるんじゃないかとさえ思えてしまう。

■ストーリー

この世には殺す人間と殺される人間がいる。自分は前者だ―そう自覚する少年、「僕」。殺人鬼の足跡を辿り、その心に想像を巡らせる「GOTH」の本性を隠し、教室に潜んでいた「僕」だったが、あるとき級友の森野夜に見抜かれる。「その笑顔の作り方を私にも教えてくれない?」という言葉で。人形のような夜の貌と傷跡の刻まれた手首が「僕」の中の何かを呼び覚ます。彼女の秘密に忍び寄った彼が目撃するのは…。

■感想
GOTHに登場するすべての異常者に言えることだが、自分の行動を冷静に、そして客観的に分析している。自分の行動を悪いことだと理解しながら、その衝動を抑えることができない。このへんは現実に存在する異常な犯罪を犯した人物達も同じような思いを抱いているのかもしれない。冷静にすべての行動を細かくレポートされると、そのグロテスクさは強調されるのだが、その行い自体は何か実験をしているような雰囲気さえ漂ってくる。

リストカット事件を筆頭に、前作に比べてさらに気持ちが墜ちるような作品が多い。異常な殺人を犯す明確な理由はなく、その結果のみがクローズアップされているようで現実離れした感覚は否めないのだが、僕と森野が正義感あふれ、事件を解決するという流れになっていないだけ助かっている。

異常な殺人や死に対して、興味本位で書かれているような気もするが、それをとことんまで追求すると本作の登場人物達のように逆に冷めた目で、客観的に見ることができるのだろうか。乙一という作者がどんな思いで本作を書いたのか分からないが、平常心で書ききったとなるとかなりの想像力豊かな人物か、妄想癖が激しい人物ではないのだろうかと思った




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