幻夜 東野圭吾


2007.5.14 白夜行の雰囲気そのまま 【幻夜】

                     
■ヒトコト感想
白夜行は東野圭吾作品の中でナンバーワンだと思っている。その続編と言われている本作。確かに雰囲気は白夜行に近く、雪穂のその後のような女も出てくる。条件としては申し分なく、一人の男と女の裏路地をひっそりと歩くような、決して表には出せない影の雰囲気を十分に感じることができる。ただ、前作ほど様々な要因が絡み合うわけでもなく、ポイントとなる事件も少ない。そして決定的なのは前作がはっきりとすべての事件に対して明言しなかったのに対して、本作はすべてをおおっぴらにしている。この違いはとても大きいと感じた。

■ストーリー

阪神淡路大震災の直後に、出会った男と女。男が犯した殺人を知る女は、彼を徹底的に利用し、野心を実現していく。ある時は自分の野望を実現するためストーカー犯罪と毒ガス事件を引き起こす。そして、またある時は自分の正体を知る男をこの世から抹殺させる。そして、またある時は自分の野望実現のために邪魔な義姉の弱みを握るため、男に義姉を誘惑させる。全てが完璧に思われた女にも一つの誤算があったそれは男の裏切りであった…。

■感想
白夜行ではうすうすと感じながらも、事件の黒幕が本当に雪穂なのかは濁している。しかし、それはドラマ化され映像としてははっきりと雪穂と亮二が絡んでいるということが示されている。こうなってしまうと原作とは別物のように感じてしまった。本作はまさしくその流れを汲むように、最初は事件の黒幕がぼんやりと浮かんでくるがはっきりしない状態が続いていた。しかし、それが後半になってくるとすべてを暴露するようにはっきりと明言されている。

二つの作品の大きな違いは、男のミステリアスさだと思った。亮二はすべてを雪穂にささげ、運命共同体となっている。しかし雅也の方は実はそこまで相手に心酔していなかった。事件に対しても残酷度でいえば断然白夜行のほうが残酷である。本作には事件の詳細まで細部にわたって表現するかわりに、事件自体の理不尽さを軽減している。残酷な場面はあるが、一人の女のためという理不尽さが前回ほど感じることはなかった。

前作が強烈なインパクトを残しただけに、本作には過剰な期待をしてしまった。前作のにおいを残しつつ、そして雪穂の影をチラつかせながら二番煎じとならずに作品として成立さえるのはさすがだと思った。実在の事件を物語りに絡めることで、よりそのリアルさを際立たせ、現実的に実現可能なのではないかと思える事件を起こしたり。一人の女が主役という意味では白夜行と同じだがリアルさでいうと断然本作の方が優れているように感じた。

様々な制約がある中で、本作のようなミステリーを完成させたのはすばらしいことだ。白夜行で感じた重い読後感と比べると、幾分軽くはなっているが
最後の場面は十分にショッキングだ。




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