ダンス・ダンス・ダンス 下 村上春樹


2007.1.27 踊り続けるしかない 【ダンス・ダンス・ダンス 下】

                     

■ヒトコト感想
「僕」の生活の中に訪れるさまざまな不思議な空間。殺人事件の犯人がおぼろげながらに見えてきたり。ミステリーのようでありながら、ミステリーではない。「僕」の周りで起こる不思議なことの結末にはいったい何が待っているのだろうか。なんてことない普通の生活の中で見逃しがちなことを深く掘り下げている。失いたくない物を失う悲しさ、それをまざまざと感じさせられた。ストーリーの流れであれば最後は悲しい結末になると予想していたが、珍しくすっきりとしたハッピーエンドだった。

■ストーリー

失われた心の震えを回復するために、「僕」は様々な喪失と絶望の世界を通り抜けていく。渋谷の雑踏からホノルルのダウンタウンまで。そこではあらゆることが起こりうる。羊男、美少女、娼婦、片腕の詩人、映画スター、そして幾つかの殺人が。

■感想
いくつかのキーワードが登場し、それが何か大きな意味がありそうでない。作中に登場する非常に現実的な部分とあいまいで不思議な部分。そのバランスが上巻から引き続きすばらしいものになっている。いくつかの殺人事件の真相を探る部分ではまさしくミステリーを思わせる雰囲気ですすむ。かと思うと真っ暗闇の中に登場する六体の骨であったり、壁を通り抜けて入ることができる向こう側であったり。言葉で表せない不思議さがある。

上巻で出てきた人々が下巻では次々と死んでいく。別れの悲しさというものは感じない。そのかわり、消えたあとの空気感というものを感じることができる。これは現実世界でも同じことで、人が死んで悲しいのは一時的なもので、その後の空気を感じるのが一番つらいことなのだろう。「ただ踊り続けるしかない」という「僕」の思い。それはどんなことがあったも生き続けなければならない宿命なのかもしれない。

今まで特に感情移入できなかったが、本作の後半ではそれが可能になった。大事な物を失うかもしれない恐怖。気づいた時には後の祭りのように消えていく大事なもの。それを失った瞬間の悲しみは、読みながら自分の大事なものを思い出し、「僕」と同じ心境になってしまった。そしてすべてが夢だと気づいた時の安心感。人事ではなく、自分の中でも安心感でいっぱいになった。




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