薔薇盗人 


2007.10.16 のんびりと肩の力を抜いて 【薔薇盗人】

                     

評価:3

■ヒトコト感想
心温まる短編、もしくは愛と涙の短編。まあ、どちらにも当てはまるかもしれない。普通ならば問題ないのだろうが、作者の他の作品を読んでしまうと、本作の中に登場する短編はどれも、物足りなく感じてしまう。決まった作者の作品を乱読していく中では、間違いなく埋もれてしまう作品だろう。あとあと思い出すときに、どのような短編が収録されていたかを詳細に思い出せるほどのインパクトがなかった。ただ、のんびりと肩の力を抜いて読み進めるには絶好の作品かもしれない。

■ストーリー

「親愛なるダディと、ぼくの大好きなメイ・プリンセス号へ」―豪華客船船長の父と少年をつなぐ寄港地への手紙。父の大切な薔薇を守る少年が告げた出来事とは―「薔薇盗人」。リストラされたカメラマンと場末のストリッパーのつかの間の、そして深い哀情「あじさい心中」。親友の死を前にして老経営者に起きた死生への惑い「死に賃」。人間の哀歓を巧みな筆致で描く、愛と涙の6短編。

■感想
サラリと読める短編の中にもいつくか印象深いものはある。「死に賃」はその導入部から最後の結末まで一気に集中して読み進めてしまった。ミステリーというのではなく、かといってSFでもない。なんだかわからないが不思議な物語だ。物語のキーである死を扱う会社の正体は結局最後まで明かされることはなかった。心にわいた疑問を放置されたような形だがそれでもいいかという気持ちにさせる強引な雰囲気がそこには存在していた。

その他にも男女の関係を描いた作品が多く見られた。ドロドロとした男女関係ではなく、ちょっと面白くユーモアを含めて描かれているものもある。社会情勢を風刺したような作品もある。さらりと読めるかわりに、強烈な印象を残すことはない。大量の本を読む人であれば、すぐに忘れ去られてしまう部類に入る作品なのかもしれない。逆に考えると次に読む作品に
まったく影響を与えないという優れた点はある。

作者の作品はいくつか読んでいるが、作品のトーンはわりと似通っている。それだけに、他に印象深い作品があると、そちらの印象が強くなってしまう。本作が浅田次郎の代表作になることはないだろうが、忘れ去られる中でも、こんな作品があったのだと、忘備録も含めた意味でこの感想を書いている。



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