バビロンに帰る 


 2008.4.27  ああ、古典のすばらしさ 【バビロンに帰る ザ・スコット・フィッツジェラルド・ブック2】  

                     

評価:3

■ヒトコト感想
前作がフィッツジェラルドの入門編としたら、本作は中級者向けというところだろうか。フィッツジェラルドに対する細かい説明は抜きにして、フィッツジェラルドを堪能してくれと言わんばなりに、様々なタイプの短編が収録されている。訳者いわく、ピンからキリまでさまざまな作品を楽しませてくれる本作。ある程度、前作を読んでいるために、フィッツジェラルドに対する理解はあるつもりだ。古典といいながら、それなりに読みやすくなっているのも好感がもてる。ただ、訳者が思うように「バビロンに帰る」がとても優れていて、他がそうではない。というようには思わなかった。どちらかと言えば、すべてそれなりに楽しめたというところだろうか。

■ストーリー

ようこそ、フィッツジェラルドの世界へ。「特上クラス」の名作から「シングル盤B面」的佳品まで、村上春樹が愛してやまない作品群から選んだ5短編を訳し、ゆかりの地アッシュヴィルを訪ねて記したエッセイ「スコット・フィッツジェラルドの幻影」を付す。

■感想
フィッツジェラルドがどのような人物であるかは前作を読んでいれば理解できていると思う。それをふまえて読むと、ずいぶんと自分の人生をそのまま小説化しているのだなぁという印象をもった。デビュー作品で大衆から支持され、莫大な金を手に浪費生活を送りながら、最終的にはアルコール中毒や妻のゼルダの問題など、晩年の衰退をイメージさせるようなそんな作品が多いようにも感じられる。もちろん、それらの作品は読んでいくうちに、自然と物語の世界に引き付けられ、離れることがない。しっかりと集中して楽しめる作品たちだ。

本作に収録されている短編の傾向としては、主人公は過去に何かしらの成功体験をしながら、現在の状況は思わしくない状態でありながら、何かを成し遂げようと必死に手足をばたつかせているというような印象をもった。主人公がどのように行動しようとも、最後の結末はほぼ、暗い終わり方をするような流れでありながら、途中で強引にハッピーエンドにもっていこうとする部分もある。これは訳者も書いているのだが商業主義的な流れに逆らえなかった故なのだろう。それは少し残念に感じた。

翻訳物というのは、どうしても読んでいて違和感を感じる部分がある。それはどうしようもないことなのだろう。訳者はしっかりと原文を読み、その面白さをどうにかして伝えようと必死に奮闘しているのはわかる。しかし、結局は訳者が日本語で書く小説には勝つことができないように感じてしまった。様々な研究がなされているこのフィッツジェラルドであっても、その真の面白さは、やはり原文をそのまま読むところにあるのだろう。

古典的名作を読むと、がっかりすることがよくあるが、本作の中の短編はそのようなことはなかった。



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