明日があるさ 重松清


 2008.2.9  作者独特の考え方 【明日があるさ】  

                     
■ヒトコト感想
重松清のエッセイ集。テーマにそって纏められたエッセイの中には作者独特の考え方がある。特に教育問題や家族のあり方、そしてSという友人については考えさせられるものがある。本作に収録されているエッセイはいろいろな誌上で発表されたものを纏めたというものなので、中には重複するような内容もある。しかし、過激な部分もある。ドラえもんが頼ってくるのび太に対して、四次元ポケットから取り出すのはナイフであり、のび太はそのナイフでジャイアンとスネオを刺し殺す。ドラえもん嫌いを公言している作者だけに、捻くれた見方をしているのだろう。しかし、共感できる部分が多いことも事実だ。

■ストーリー

少年犯罪、家族のあり方、教育問題、本や映画や音楽、大切な友、少年時代の思い出など、家族をテーマに作品を書きつづける直木賞作家・重松清の原点がわかる著者初めてのエッセイ集。

■感想
それにしてもエッセイの切れ味には相当なものがある。あるテーマのエッセイだろうが、独自の切り口で展開し、いつの間にかしっかりとテーマに沿った内容を着地点としている。特別ユーモアがあったり感動するということはないのだが、作者独自の考え方と、ニュータウンに住む中年というブレない視点からの語り口はとても面白い。作者がライター出身ということも、本作には大きく影響しているのだろう。

エッセイの欠点としては時事的なものを扱うと、それを後から読む場合にかなり色あせるか、もしくは間違った事実をさも当然のように語るという可能性があることだ。その時には違和感がなくとも、時間がたつとひずみがでてくる。それは何もエッセイに限ったことではないのだが、あるテーマにそって、その時ホットな話題を扱いやすいエッセイでは、そうなることが多いのだろう。本作でも、神戸児童殺害事件があちこちに登場する。そして、小学校襲撃事件も登場する。その時感じた思いを、エッセイと共に思い出すことはできるが、今読むと、なんだか随分遠い昔のことのように感じてしまった。

本作の特徴として、作者のプライベートな部分が描かれていることだろう。小説家としての作者以外を知るには、本作はとてもいいのかもしれない。Sという友人の話。そして、ライターを続けながら小説家として成功した場面。はたから見ると、恵まれた環境にいると思えた作者であっても、常に危機感を持って仕事に望んでいるということがわかった。作者のプライベートというのは、知る限り本作以外には語られていない。

エッセイというのは、その人の人となりがでると思う。小説では物語の中に隠された作者の意見が、エッセイでは前面に押し出されている。作者を知るには一番の作品だろう。




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