ある閉ざされた雪の山荘で 東野圭吾


2005.6.13 芝居と現実のハザマ 【ある閉ざされた雪の山荘で】

                     
■ヒトコト感想
どのようにして密室を作り上げるかのかがありきたりではない。 仮面山荘殺人事件と同様に、そのことを良く考えられている。 はたして、この殺人は演出なのか?それとも現実なのか? 常に演出ではないのかと思わせることで、行動に制限を付け その為に事件解決を難航にしている。 読んでいてとても感情移入してしまった。

■ストーリー
早春の乗鞍高原のペンションに集まったのは、オーディションに合格した男女7名。 これから舞台稽古が始まる。豪雪に襲われ孤立した山荘での殺人劇だ。 だが、1人また1人と現実に仲間が消えていくにつれ、彼らの間に疑惑が生まれた。 はたしてこれは本当に芝居なのか?

■感想
殺人劇を芝居として演じるという前提があるうちは緊張感がなく、 当たり前だが恐怖感もない。それが本当に演出かどうか疑問に持つ者が現れた途端に、 その疑惑が急激に全員に広がっていった。 この感じは本当によく分かる。実際に確実な真実が分からない状態では 人の想像力は悪い方に傾きがちだからだ。

その緊張感がとても良く伝わってきたし、芝居なのか現実なのかを議論し、 それぞれの矛盾点やメリット、デメリットを語り合う場面はまさしく本作の 一番の山場だと思う。 その議論の中で、肝心な点はあえて触れないようにし、読者にも芝居か現実かを あえてわからないようにしているのもよかった。

まあ、普通に考えればそんな疑惑がわいた時点で何かしらの行動を起こすだろう。 いくら演出家が特殊だからといって、そこまでする理由も説得力も感じない。 自分の命と舞台へ出演することを天秤にかけた場合は、舞台出演の方が重かったのだろうか。

東野作品にしては珍しく、最後は暗い気持ちになることなく、スッキリと読み終えることができた。 予定調和的なハッピーエンドではないが、それぞれの人物にふさわしい終わり方だったと思う。 しかし、本作の登場人物はどこか心が波状しているような印象を受けた。




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