あかんべえ 下 宮部みゆき


2007.7.30 ホラーというより、ミステリー 【あかんべえ 下】

                     
■ヒトコト感想
上巻の、少し怖いが、ほのぼのとしたスタイルから一新。下巻は幽霊たちの秘密が次々と明らかになっていく。そればかりか、幽霊たちを見ることができる理由までも明らかとなる。幽霊騒ぎのさなか、それぞれの人物たちの奥底にある罪もしだいに見えてくる。幽霊が登場するホラーというよりも、極上な人間物語を読んでいるような気分になる。おりんと幽霊たちとの別れは、わかっていながらも寂しく、そして悲しくなってしまう。

■ストーリー

「ふね屋」には五人の亡者が迷っていた。あかんべえする少女、美男の若侍、婀娜っぽい姐さん、按摩のじいさん、宴席で暴れたおどろ髪の男。亡者と心を通わせていくうちに、おりんは、ふね屋の怪異が三十年前にここで起きた忌わしい事件に関っていることに気づく。幾重もの因縁の糸はほどかれ、亡者は成仏できるだろうか?ファンタジーとミステリと人情味が絶妙に溶け込んだ感動の時代長篇。

■感想
一見、まったく関係ないようなことがらも、実は深い繋がりがある。ふね屋に住みつく幽霊たちが、なぜ成仏できないのか、その理由も本作を読むことでしっかりと明かされる。おりんという純真無垢な少女、そして周りの幽霊たち。この二者の関係が物語を完全なホラーにせず、ミステリー風味が利いた面白い作品になっている。

本作は幽霊だけでなく、複雑な人間関係で成り立っている。おりんの出自や島次たちふね屋で働く面々。彼らの隠れた心の内が、幽霊たちとたくみにシンクロし、物語を奇妙な方向へと導いている。読んでいると、幽霊たちよりも生きている人間のほうが恐ろしいようにも感じてくる。おりんという純粋な少女の目からみた、大人の世界は幽霊の世界以上に、複雑で恐ろしいところだったのだろう。

幽霊が登場し、恨みつらみもあるが、決してホラーではない。幽霊たちの存在が、作中では不思議なものではなく、おりんの良いアドバイザーのようになっているためだろう。ある程度予想していはいたが、アドバイザーたる幽霊たちとの別れは、寂しく、そして悲しいものだった。ただ、その後の流れは非常にすっきりと、さわやかな後味を残している。

ホラーというよりも、ミステリーに近いといったほうがいいだろう。




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