あかんべえ 上 宮部みゆき


2007.6.13 これからの季節にぴったり? 【あかんべえ 上】

                     
■ヒトコト感想
江戸時代、ある料理屋の物語。十二歳の娘おりんと、おりんにしか見えない幽霊との交流を描く。幽霊ものといえば背筋が凍るような恐ろしい物語を想像してしまうが、実際にはおりんと幽霊たちの、なんだかほのぼのとした心の交流が描かれているようだ。どういった理由で幽霊として存在しているのか、屋敷にはいったいどんな秘密があるのか。おりんの目を通して「ふね屋」で起こるさまざまな事件と幽霊たちが絡み合っている。シリアスでもないが、お笑いでもない。幽霊たちのルーツを探るおりんの冒険物語といってもいいだろう。

■ストーリー

江戸・深川の料理屋「ふね屋」では、店の船出を飾る宴も終ろうとしていた。主人の太一郎が胸を撫で下ろした矢先、突然、抜き身の刀が暴れ出し、座敷を滅茶苦茶にしてしまう。亡者の姿は誰にも見えなかった。しかし、ふね屋の十二歳の娘おりんにとっては、高熱を発して彼岸に渡りかけて以来、亡者は身近な存在だった―。この屋敷には一体、どんな悪しき因縁がからみついているのだろうか

■感想
料理屋の娘であるおりん。このおりんと屋敷に住み着いた幽霊たちの不思議な物語だ。幽霊が登場する物語としては背筋が凍るようなおどろおどろしい物語や、うらみつらみが続いた果てに、成仏できない幽霊の話など、ほのぼのとは対極な話になるものと思っていた。しかし、実際には幽霊たちがなんとものんびりで、唯一幽霊たちを見ることができるおりんが幽霊たちといつの間にか友達のような関係になっている。幽霊が出てくるが、怪談ではない

おりんを中心に、独立したはいいがのっぴきならない状況に追い込まれたおりんの父親である太一郎。そして太一郎をサポートするふね屋の面々。おりんと幽霊たちの流れと、ふね屋の流れがおりんを中心としてうまい具合に交差しながら進んでいく。おりんの周りで起こる摩訶不思議な出来事を、おりん自身が誰にも相談することなく、自分の胸にしまっておくというところも本作のポイントかもしれない。

幽霊たちと仲良くするおりん。それとは別のもう一つのおりんは、同年代に友達がおらず、親が働きづめで、かまってもらえず少し寂しい子どもという側面がある。このおりんの寂しさがところどころに登場し、幽霊で寂しさを紛らわすなど、恐怖心よりもおりんを中心としたほのぼの感がただよっている。ほのぼのの原因は屋敷に住み着く幽霊たちが誰に対しての恨みかをはっきり明言しないところもあるのだろう。

上巻ではほのぼのスタイルだが、下巻でどのようになるのか興味深い。恐らく屋敷に住み着く幽霊たちの過去が明らかになり、悲しい物語に発展するのかもしれない。




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