ゾーンにて 


 2025.9.10      制限区域に立ち入り取材する女 【ゾーンにて】


                     
ゾーンにて【電子書籍】[ 田口ランディ ]
評価:3
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■ヒトコト感想
田口ランディの連作短編。そもそも原爆やスピリチュアル関係のエッセイや小説を書いてきたような作者が、東日本大震災後の立ち入り禁止区域をテーマとした作品を描く。まさに作者の大好物ような短編であることは間違いない。主人公はもしかしたら作者そのものの人物なのかもしれない。メディアの取材ということで、立ち入り禁止区域となった場所に入り込む。

印象的なのは、飼い主に放棄された飼い犬や猫たちや、家畜として飼われていた牛の物語だ。鎖につながれた状態の牛はすぐさま衰弱死してしまうが、解き放たれた牛は自由に動き回り自由に草を食べてたくましく生き続ける。制限された区域にあえて入る人と、そこに残る人が描かれている。

■ストーリー
福島第一原発から半径20キロ圏内は、警戒区域となった。人が立ち入ることのできない場所〈ゾーン〉に棲むものたち。現代の巫女・田口ランディが、極限に生きる命の輝きを描く「魂身の」中篇集。

■感想
東日本大震災により福島第一原発がメルトダウンした。その結果、周辺地域は高い放射能に汚染されているため人が住めない制限区域となってしまった。そこに取材に入る女の物語となっている。制限区域に入るということはどういったことなのか。

ビニールのカッパのようなものをかぶったりマスクをしたり。制限区域に入り慣れている者はマスクすらしていない。熱いさなかでも見えない放射線を恐れて完全防備した状態で入る。そのあと、制限区域から戻ってきたあとの服はちゃんと除染しているのだろうか。気になる部分だ。

生まれ育った場所が制限区域となる。となると、故郷を捨てて別の場所で生活するのか。それとも故郷に残り続けるのか。避難所生活に取材として入り込むことの異物感も描かれている。東京からきた小説家というだけで周りからは奇異の目で見られる。

避難所で生活する者と外部から来た者の微妙な違いを描いている。女が制限区域を案内してくれるたくましい50代の男に惹かれていくのがポイントなのだろう。実は男の妻は地震で死んでいた。その事実を女は後で知ることになる。

本作は作者のノンフィクションなのだろうか。作者のバイタリティであれば、地震が起きたあとに制限区域に怖いもの知らずで入っていくなんてことは普通にあるのだろう。50代のたくましいおじさんに恋をするなんてのも恋多き作者であればありえないくもない。

餓死する牛とたくましく生き残る牛。別の短編では癌で余命を宣告された男が、癌細胞をひとつづつ焼き殺す機械にたよりながら、病院で女と出会う物語がある。どの作品もなんだか陰鬱な雰囲気があることは間違いない。

陰鬱な気分となる短編ばかりだ。



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