大樹館の幻想 (星海社FICTIONS) [ 乙一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
乙一の本格ミステリー。謎の巨大な洋館、大樹館で事件が起こる。探偵役として登場するのは大樹館の使用人として働く時鳥だが、特殊な能力がある。それは妊娠している時鳥のお腹の中の胎児と会話ができるということだ。未来の科学技術で、成長した時鳥の子供が時鳥のお腹の中にタイムスリップする。
胎児は未来を見ているので、大樹館で何が起きたかは知っている。その教訓を生かして胎児は時鳥にアドバイスをするのだが…。胎児のアドバイスにより事件の未来が変わる。その結果。。。胎児からのアドバイスがなければ大樹館で起きた殺人事件の犯人は時鳥ということにされていた。真犯人は…。大樹館に隠された秘密が妙に数学的なのが印象的だ。
■ストーリー
ーー決して解かれえぬ謎と共に炎に包まれ、この世から消え去った「大樹館」。この館に住み込みの使用人として働く穂村時鳥は、「これから起こる大樹館の破滅の未来」を訴えるおなかの胎児の声を頼りに、その未来を塗り変える推理を繰り返すがーー!?
■感想
大樹館で法事が行われる。そこに兄妹たちが集まるのだが…。謎の巨大な屋形に人々が集まり殺人事件が起こる。その後、外部と連絡がとれない。雪深い山奥にある大樹館なので、警察はなかなかやってこない。これでもかというほど、定番的な本格ミステリーの舞台がそろっている。
風変わりな父親は創作活動中は部屋から出てこない。この父親が何者かに殺されたというのが未来の胎児からの情報であり、その事件の犯人にされたのが時鳥だったのだが…。現代の事件は大きく変わっていく。
長男が何者かに殺害された。胎児が見てきた未来とは違う出来事が現代で起きている。時鳥が父親の死体を発見しなかったことが、新たな殺人事件を引き起こした。ここからは密室殺人事件への流れとなっている。誰も進入した形跡の無い場所で殺人事件は起きた。
誰かが隠れる場所は部屋の中にはないはずなのだが…。真ん中に巨大な大樹が生えた状態の周りを囲むような形で作られた屋敷。そのため、部屋としてのつくりは特殊なので、何か大きな仕掛けがあるのは想像できるのだが…。
部屋の中の作りが図解され、動くウォークインクローゼットが大きなカギとなる。夏と冬でウォークインクローゼットの大きさが異なり、それを移動させて季節により使いやすいように手前にもってきたりもできる。部屋の間取り図からありえない展開を紐解く。
大きさの違うウォークインクローゼットが入れ替えたとしても、同じようにぴったり部屋にはまるのはなぜか?数学的な考え方をして、そこから事件の謎を解き明かす。探偵は未来から来たお腹の中の胎児というファンタジーだが、謎解きは本格的だ。
乙一にしては珍しい本格ミステリーだ。