人間標本 [ 湊かなえ ]
評価:3
湊かなえおすすめランキング
■ヒトコト感想
湊かなえの嫌な気持ちになるミステリー。そもそも冒頭から子供が標本にされた絵が続いていく。本作を読む前にこの絵を見せておいて、その後に、実際に標本にする過程が描かれている。ミステリー的な流れは確かに存在するのだが…。ミステリーの要素で驚くよりも、生きた子供たちを捕獲し、まるで蝶をはく製にするように体を切り刻んで標本にする描写は強烈だ。
いくつかの視点で分かれて描かれている。この人間標本を作ったのは誰か?というのがメインの流れなのだが…。標本にされた子供たちそれぞれのエピソードがあるのだが、どれを読んでも、標本にされるのが当然なんてのは絶対に思わない。真犯人や新事実が後半になると次々と登場してくるのが特徴だ。
■ストーリー
人間も一番美しい時に標本にできればいいのにな蝶が恋しい。蝶のことだけを考えながら生きていきたい。蝶の目に映る世界を欲した私は、ある日天啓を受ける。あの美しい少年たちは蝶なのだ。その輝きは標本になっても色あせることはない。五体目の標本が完成した時には大きな達成感を得たが、再び飢餓感が膨れ上がる。今こそ最高傑作を完成させるべきだ。果たしてそれは誰の標本か。――幼い時からその成長を目に焼き付けてきた息子の姿もまた、蝶として私の目に映ったのだった。イヤミスの女王、さらなる覚醒。15周年記念書下ろし作品。
■感想
父親が有名な画家であり、自身も蝶博士として有名な男。幼少期に蝶の剥製を作った経験から、人間の標本を作りたいという思いを隠しきれなくなった。。。割とわかりやすいストーリーが進んでいくかと思いきや…。
冒頭の子供たちの標本は多少幻想的に描かれている。これが蝶博士の幼少期から子供が生まれまでとなり、幼馴染の画家の留美ちゃんの絵画合宿に子供が呼ばれることで大きな転機となる。ここで才能ある子供たちに出会ったことで…。わかりやすいストーリー展開だが、その後が強烈だ。
次のアートでは蝶博士の独白小説となる。ここで人間標本をつくる過程が詳細に語られている。このことがきっかけで蝶博士は逮捕される。自分が犯した大きな罪を告白するパターンなのかと思ったのだが…。
途中から誰かの罪をかぶって人間標本を自分が作ったふりをしているというのは伝わってきた。ただ、そうだとしても、この人間標本をつくる描写は強烈だ。睡眠薬で眠らせた子供に薬液を注入して殺す。その後に、子供の身体を真っ二つにする作業だとか。。。かなり強烈だ。
ラストで収監された蝶博士に留美ちゃんの娘である杏奈が会いにやってくる。ここで驚きの告白をする。結局は蝶博士は自分の息子が人間標本をつくったと思い込んでおり、やめさせるために息子を最後の標本にしたのだが…。すべては勘違いでしかない。
かなり悲しい結末だ。それと共に、芸術家のサイコな考え方というのは、一般人には到底理解できないだろうと想像できた。芸術のためにはなんでもやってしまう。例え標本にされて当然の子供だとしても、強烈すぎることは間違いない。
嫌な気分になる物語だ。