夏の雷鳴 


 2025.4.26      ホラーではない奇妙な短編集 【夏の雷鳴】


                     
夏の雷鳴 わるい夢たちのバザール2 (文春文庫) [ スティーヴン・キング ]
評価:3
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■ヒトコト感想
スティーブン・キングの短編集。ホラー作家ではあるが、ホラーの要素はそこまでない。漫画の「デスノート」に似たパターンの「死亡記事」は、誰もが想像するパターンとなっている。死亡記事を書くと実際にその人物が死亡する。ただ、目的の人物だけでなく同姓同名の人物がある範囲で何かしらの事故か病気で死んでしまう。この手のパターンというのはそれなりに先が想像できてしまうが、うまい構成により先を楽しませる雰囲気があるのはすばらしい。

それ以外にも印象的な作品はいくつかあるが、まったくホラー要素のない、ライトでサラリと読み終わりまったく印象に残らない作品もある。これは単純に好みだけの話なので、人によっては印象は大きく変わるだろう。

■ストーリー
花火合戦に挑んだ酔っ払いの末路とは――新たなる黄金時代を迎えた「恐怖の帝王」が短編小説の才能をみせつける最新短編集その2。滅びゆく世界を静かに見つめる二人の男と一匹の犬――悲しみに満ちた風景を美しく描く表題作。湖の向こうの一家との花火合戦が行きつくとんでもない事態を描く「酔いどれ花火」。架空の死亡記事を書くと書かれた人が死ぬ怪現象に悩まされる記者の物語「死亡記事」他、黒い笑い、透明な悲しみ、不安にみちたイヤミス、奇想が炸裂するホラ話、そしてもちろん化け物も! バラエティあふれる10編を収録。帝王自身による舞台裏の解説も楽しい最新短編集その2。

■感想
最も印象に残っているのは、間違いなく「鉄壁ビリー」だ。作者が前書きで野球好きであり、野球に関する物語を書きたいと語っている。その通りで、決してホラー作品ではないのだが、奇妙な物語として強く印象に残っている。

レギュラーの捕手が怪我をしたため、急遽マイナーから呼ばれた捕手がいた。最初は頼りない選手かと思いきや…。圧倒的な打撃力と捕手の能力によりエースの勝利に貢献した。特に捕手としてホームインしようとしたランナーをブロックしてアウトにする能力がすさまじい。

単純にそれまで無名な選手がチャンスを与えられて脚光を浴びたというだけではない。オチが秀逸だ。無名の選手が一夜にしてヒーローになる。というのはよくあるパターンで、単純にその流れかと思いきや…。それだけではない、ラストの展開がすばらしい。

この短編もそうだが、短編の前に作者の前書きがある。内容に直接触れるのではなく、自分の日々の経験やエピソードを語り、なんらか影響のある興味深いエピソードなのが面白い。

「酔いどれ花火」は、酔っぱらった二組の家族が、それぞれ花火を打ち合うという物語だ。なぜそんな状況になるのか不明ではあるのだが…。対立する二組の家族というイメージから、ラストではなんともあっさりとお互いが引き下がっているというのが良い。

前書きで老女がキングに対して話しかけるエピソードが良い。「刑務所のリタ・ヘイワース」を書いたと老女に説明しても、老女がそれを信じてくれないくだりは最高だ。売れっ子作家ではあるが、人によっては印象の違いがあるという感じだ。

サラリと読める短編集だ。



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