成瀬は天下を取りにいく [ 宮島未奈 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
中学生の成瀬が自分の思うがままに進む連作短編集。普通の人とは違う、妙な大物感が成瀬にあるのは間違いない。周りの目を気にすることなく、ひたすら自分の思うままに進む。常識的な人なら躊躇することもまったく気にすることなく最短距離で進む成瀬。この感じは、共感性羞恥を感じてしまい恥ずかしくなる人もいるだろう。
中学生でM-1に出たりだとか、髪の毛を丸坊主にして髪がどれくらい伸びるかの実験をしたり。ある意味、世間体を気にする大人であれば絶対にできない。子供であっても中学生であれば躊躇する。そんなことをやりきってしまう成瀬は、絶対に何か大きなことをやるだろうと思ってしまう。その前日譚として楽しく読むことができた。
■ストーリー
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。M-1に挑戦したかと思えば、自身の髪で長期実験に取り組み、市民憲章は暗記して全うする。今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。2023年、最注目の新人が贈る傑作青春小説!
■感想
成瀬の行動力はすさまじい。他人からするとなんのためにやっているのかわからないが、成瀬の中では確固たる理由がある。連作短編集の形で成瀬の幼馴染や、友達が成瀬のへんてこな行動を見て感化されていく物語だ。
閉店間近な西武大津店に毎日通いテレビの夕方の地元ニュースに映り込む。それも西武ライオンズのユニフォームを着て。決して大の西武ファンというわけではない。それでも目立つので少しづつ話題になる。これがなんのためなのかは後で判明するのだが…。
そのほかにも成瀬は幼馴染とM-1に出たりもする。漫才のボケと突っ込みをとっさに逆に変えて文化祭で大うけしたりと、成瀬に付き合うことになる人々の大変さも描かれている。ただ、皆がいやいやではなく成瀬に引き込まれるように成瀬と行動を共にする。
百人一首の大会に出た際には、広島代表の男子から興味をもたれて交流をもつ。成瀬のキャラが明らかにテンプレな無機質キャラで、どこかエヴァンゲリヲンの綾波レイのようなイメージで成瀬を想像してしまった。
成瀬は必ず大物になるのだろう。変わり者の成瀬が周りからいじめのような扱いを受けてもまったく気にしない。成瀬の一人称の短編もあるだが、そこでは妙に他人に気を遣う成瀬の心境も描かれている。あらゆることにチャレンジし、どこか普通ではない。
成瀬の同級生が東大を目指し、同じくらいの学力である成瀬は京大を目指す。続編があるようだが、たびたび成瀬自身が宣言している西武大津店を建てるというのは実現するのだろう。
成瀬のキャラが本作のすべてだ。