息子に贈ることば 


 2025.6.2      作者の息子に対する愛があふれている 【息子に贈ることば】


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評価:2
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■ヒトコト感想
辻仁成が自分の息子に対して言葉を贈る。日本人の、それもシングルファーザーの親子がフランスで暮らす。小説家である作者がひとりで家事をして子供の弁当を作りながら、子供を育てる。有名女優と結婚しフランスに住んでいたのは知っていた。そこから離婚し子供を引き取っていたのはかなり強烈だ。フランスではなく日本に戻り、実家の母親などに手伝ってもらえば、より楽な生活が送れただろうに…。

フランスは根深い人種差別があるはずだ。それを経験しながらも、差別に負けずに暮らしているのだろう。本作では子供が人種差別を受けたなんてことは書かれていない。子供の方がフランス語がペラペラになったなんてことや、教師たちとの会話が大変というのが描かれていた。

■ストーリー
「憎しみを抱いて生き続けるのは疲れます。てのひらを返すくらいなら私はその手をずっと握りしめていたい。」日々、壁にぶち当たりながらも自らを鼓舞し、息子の食事を作り、送り迎えをし、語らい続けた5年間の軌跡。父と、すべての息子たちへ……苦悩と希望と勇気に満ちた言葉の贈り物。「自分のことは二の次になった。優しいふりができない。生活感丸出し。でも、今はそんな自分で良い。失うものはないが、命がけがある。生きることに妄想せず。ただ十くんと生きる。毎日を精一杯生きるだけだ。」

■感想
作者がフランスで生活していたのは知っていた。それが息子と二人暮らしということに驚いた。本作はどのような位置づけなのだろう。エッセイとも違う。完全な物語ではなく、実生活に即した流れで描かれているのだろう。

日記のようでもあり、息子に語り掛ける形式なので、息子へのメッセージのようでもある。異国の地で小さな子供を抱えてシングルファーザーで生活する。仮にそれが日本であったとしても、シングルファーザーで子供を育てるのは大変だ。まして言葉の通じないフランスでの大変さは想像を絶するものがある。

子供との生活では、しっかりと躾をしなければならないときがある。作者はそれを理解してはいるが、どうしても緩くなってしまうことがあるらしい。作者は息子への愛にあふれている。本作を成長した息子が読んだとしたら、かなり感動するかもしれない。

息子のことを十と呼んでいるのは、そのまま十が名前だからだろうか。何かしら意味があってそう呼んでいるのか。作中では息子に語り掛けるという体で描かれてはいるのだが、自分自身へ語りかけているようにすら見えてしまった。

本作はtwitterで描かれた内容がまとめられたものらしい。だから文章としてはぶつ切りではあるが、印象深い言葉でまとめられているように感じた。泣きながら帰ってきた息子に対してかける言葉。ジャイアンのようないじめられっ子に泣かされてはいるが、遊ぶのはいつもそのジャイアンのような子。

子供同士のコミュニティに安易に入り込むのではなく、出かける息子の背中に向かって「がんばれよ」なんて心で思うのは泣けてくる展開だ。

子をもつ親であればより感じるものがあるだろう。



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