ミ・ト・ン [ 小川糸 ]
評価:2.5
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■ヒトコト感想
架空の国のマリカという少女の物語。この架空の国はラトビアをモデルとしているらしい。ロシアの影響を大きく受けているラトビア。そんなラトビアで暮らす人々をイメージした物語。作者のエッセイからラトビアでの生活が描かれている。マリカの生活は、まさに作者がラトビアの生活を通して感じたことが描かれているのだろう。
おばあちゃんから学んだミトンの編み方。ミトンを編んで人にプレゼントすることを生涯の生きがいとしているマリカ。好きな人と結婚し、幸せな生活を続けるのだが、氷の国の侵略により人々は恐怖の生活を続けることになる。ロシアに侵略されるラトビアの人々を描くように、マリカはどんな状況にあってもミトンを編み続ける。
■ストーリー
マリカは外で遊ぶことが大好きな女の子。代々受け継がれる糸紡ぎや手袋を編むのが大の苦手。そんな彼女に、気になる男の子が現れて。この国では「好き」という気持ちやプロポーズの返事を、手袋の色や模様で伝えます。おばあさんに手ほどきを受け、想いを込めて編んでいきます。昔ながらの暮らしを守るラトビア共和国をモデルにした心温まる物語。
■感想
昔ながらの暮らしを守り続けるラトビアの人々。そんな国を世界は許さず、周辺の大国であるロシアの格好の餌食となる。本作では架空の国のマリカの物語となってはいるが、ラトビアがモデルとなっているようだ。
ミトンを編みプレゼントする。よく考えれば、ミトンの手袋をするのは小学校の低学年くらいだろう。大人になって手袋をすることがあっても、ミトンの手袋をすることはまずない。ミトンと言えば鍋つかみのようなイメージしかない。手作りのミトンの手袋を人にプレゼントするというのは素敵な習慣のように思えた。
マリカの生活は自然に囲まれ、現代的とは程遠い生活となっている。スマホの描写がでるわけでもなくSNSで情報を拡散するということとは無縁の生活。好きな人ができたら、ミトンで相手に気持ちを伝える。非常に原始的ではあるが、SNSでのメッセージのやりとりよりも、気持ちは伝わることだろう。
この情報化社会の中で、逆に情報が限られるというのは幸せなことかもしれない。知らなくてよい情報は知らないままで過ごせるので、目の前のことに集中できるのだろう。
氷の国から侵略されることになる。大国に対してなすすべがないのはラトビアも同じなのだろう。ただ、人々は氷の国の侵略におびえ、愛する人を戦争で失ったとしても前向きに生きる。マリカは子供に恵まれず愛する夫を戦争で失ったとしてもミトンを編むことをやめない。
おばあちゃんとなり、ミトンの編み方を若い子たちに教えたりもする。経済成長に飲み込まれない古くから根付いた習慣を続けることは大切なことだ。今の世の中からは次第に消えていく文化なのかもしれない。
ラトビアという国に行ってみたくなる作品だ。