吉祥寺の朝日奈くん (祥伝社文庫) [ 中田永一 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
乙一の別名義の短編集。せつない恋愛模様を描いた短編が続いていく。どうやら実写映画にもなっているらしい。冒頭の短編は交換日記に関する物語となっている。交換日記が次々といろいろな人に渡っていく。それだけでなく、手にした人はその交換日記に何かしら記入している。
日記をひたすら読むというような感じで、突然新たな登場人物が全く脈略のないことを書いたりもしている。最終的にはこの日記を読んでいくことで、この恋愛がどうなったかが分かる仕組みだ。よく考えると、日記を拾った人に、それまでの経緯をすべて読まれているとなると、かなり恥ずかしい展開であることは間違いない。一番読まれたくない身内に交換日記を読まれているのは最悪だ。
■ストーリー
彼女の名前は、上から読んでも下から読んでも、山田真野(ヤマダマヤ)。吉祥寺の喫茶店に勤める細身で美人の彼女に会いたくて、僕はその店に通い詰めていた。とあるきっかけで仲良くなることに成功したものの、彼女には何か背景がありそうだ…。愛の永続性を祈る心情の瑞々しさが胸を打つ表題作など、せつない五つの恋愛模様を描く中田永一の代表作。
■感想
表題作でもある「吉祥寺の朝日奈くん」は最高だ。喫茶店に努める細身の美人に恋をした朝比奈くん。相手は人妻で良くないこととわかっていながら…。不倫へ踏み出すことへの罪悪感と、その後のオチが最高だ。
ミステリーの要素もあり、ラストはなんだか少し爽快な気分になる。主人公がモテるタイプであり、その気になればきっかけさえあれば簡単に女性を落とすことができるというのが強烈だ。ラストまでどんな仕組みの物語かはわからなかったが、最後にすっきりとする展開なのが良い。
「三角形はこわさないでおく」は甘酸っぱい三角関係の物語だ。定番ではあるが、モテる男と普通の男、そしてモテる男が好きな女。普通の男は自分なんてという思いが強いのだが、実は…という流れだ。
モテ男がモテているのをさんざん近くで見ている状態で、普通である自分が他人から好意を向けられるなんてことはない、という流れだ。定番的ではあるが、三角関係としてモテる男よりも普通の男のことが好きというのが良いのだろう。
全体を通して、どこか米澤穂信の短編のように感じた。恋愛の要素がありながら、そこに少しだけミステリーが加わっている。登場人物の女性が小山内さんというのもその印象を強める要因なのだろう。
交換日記の下りは状況がはっきりしないまま、様々な人が日記に追記していく中で状況がわかっていくのが秀逸だ。それなりにインパクトがあるのは間違いない。冷静に考えると、人が落とした交換日記にわざわざ追記するのは少し異常かもしれない。
特殊な状況の恋愛物語だ。