関心領域


 2025.5.1    隣で行われている虐殺を知らない家族【関心領域】


                     
関心領域 [ ジョナサン・グレイザー ]
評価:3

■ヒトコト感想
ヘス中佐はアウシュビッツ収容所の所長として壁を隔てた隣で生活していた。豪邸と自然に囲まれた生活に家族は大満足している。隣で何が行われているのかは、子供や奥さんは知らないのだろう。使用人を使う贅沢な暮らしを満喫している。使用人がひそかにユダヤ人を助けるために食べ物を土に埋め込む場面は、そこだけ白黒の映像となり、幸せな日常とは別の雰囲気を醸し出している。

ヘスが栄転することになり、引っ越しすることに奥さんは大反対する。環境を何も理解せず、能天気に贅沢な生活を満喫しているのが強調されている。奥さんの母親が遊びに来た時には、理想の生活を手に入れた娘を運が良いとべた褒めしている。この感覚の違いはしょうがないのかもしれないが、強烈なインパクトがある。

■ストーリー
空は青く、誰もが笑顔で、子どもたちの楽しげな声が聞こえてくる。そして、窓から見える壁の向こうでは大きな建物から煙があがっている。時は1945年、アウシュビッツ収容所の隣で幸せに暮らす家族がいた。スクリーンに映し出されるのは、どこにでもある穏やかな日常。しかし、壁ひとつ隔てたアウシュビッツ収容所の存在が、音、建物からあがる煙、家族の交わすなにげない会話や視線、そして気配から着実に伝わってくる。その時に観客が感じるのは恐怖か、不安か、それとも無関心か? 壁を隔てたふたつの世界にどんな違いがあるのか?平和に暮らす家族と彼らにはどんな違いがあるのか?そして、あなたと彼らの違いは?

■感想
大自然に囲まれた中で、一軒の豪邸がある。プール付きの豪邸でお手伝いさんがいる。広い庭ではバーベキューパーティができる。そこに家族と住むヘス中佐はアウシュビッツ収容所の所長となり、収容所の隣の豪邸で家族と生活している。

ヘスの誕生日には家族がサプライズでカヌーをプレゼントしたりもする。近くの川で子供と魚取りをしたり、カヌーで川下りをしたり。かと思うと、収容所につながる川から流れる薬品に驚き、急いで子供たちを川からだして体を洗わせたりもする。収容所で行われていることを家族は理解しているのだろうか。。。

ヘスたち家族の幸せな生活と対比されるように真っ黒な画面が登場してくる。そして、現代のアウシュビッツの展示物が映り込む。アウシュビッツで行われていることの恐ろしさと、隣に建つ豪邸のアンバランスさが強調されている。

ヘス家のお手伝いさんが、ひそかに土の中にリンゴやジャガイモを埋めて、収容されているユダヤ人たちを助けようとしている。このシーンだけは白黒の恐ろしい映像となっている。幸せな日常のカラフルさと比較すると、そこだけ明らかに恐怖映像となっている。

ヘスが栄転することになり、引っ越しを奥さんに話すのだが…。ここで奥さんが大反対する。手に入れた豪邸の生活を手放したくないと、ヘスに単身赴任をお願いする。方やヘスはいかに効率的にユダヤ人を殺すかだけを考え、会議に出席している。

隣で大虐殺が行われていることを知ってか知らずか…。家族たちの幸せな生活と、ひとりオフィスで悩むヘスの映像が印象的だ。何かオチがあるわけではない。ヘスの家族はただ目の前の豪邸の生活を満喫しているだけ。この無関心さがポイントなのだろう。

強烈なインパクトがある白黒映像が頭にこびりついて離れない。



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