針と糸 


 2025.5.25      母親との確執を赤裸々に描く 【針と糸】


                     
針と糸 (毎日文庫) [ 小川糸 ]
評価:3
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■ヒトコト感想
小川糸のエッセイ集。テーマごとに分かれている。ドイツのベルリンで暮らすエッセイがメインではあるが、母親に関してのエッセイもある。ここまで母親に関してまとめらているエッセイは他ではない。母親との関係が悪かった作者。そのことを赤裸々にエッセイに語りだしたのは、母親が亡くなったからだろう。

結構、衝撃的なエッセイだ。幼いころに虐待を受けていただとか、理不尽なことを平気で押し通す母親に対して父親は自我を隠すようになっただとか。さすがにこのエッセイを母親に読ませるわけにはいかないのだろう。母親の晩年には多少関係は改善されたとはいえ、一般の母娘からすると異質なことは変わりないのだろう。普段の作者のほのぼの系エッセイをイメージしていると衝撃を受けてしまった。

■ストーリー
ひと針、ひと針、他愛のない日々が紡ぎ出す〈希望の物語〉人生が愛おしくなる珠玉のエッセイベルリン、ラトビア、モンゴル、鎌倉......転がり込んだ見知らぬ土地で変化する、幸せの尺度。母親との確執を乗り越え辿りついた、書くことの原点。デビュー10年の節目、赤裸々に綴られた人気作家の素顔。

■感想
ドイツでの生活のほのぼのエッセイはいつもの通りで安心して読むことができる。なぜドイツで生活することになったのか。ドイツで生活すると決めた瞬間のことだとか、日本とドイツの違いだとか、他エッセイでも書かれていたことも含め、いつものエッセイが続いていく。

ゆりねを飼うことになったきっかけについても、コロというレンタル犬の存在が大きく、そのまま日本からベルリンに犬を連れていったりと、結構ハードな日常を過ごしていたりもする。ドイツのペット事情が分かるのもよい。

なんといっても強烈なのは母親に関するエッセイだ。ここまで赤裸々に語るとは思ってもなかった。作者のほのぼのエッセイからは幼少期に虐待を受けていたというのは結びつかない。料理上手な母親のいる平凡な家庭で穏やかに成長したのかと思いきや…。

理不尽な母親の暴力におびえながら生活し、成長してからは母親との距離をあけるようになっただとか。母親自身もダメな母親だったという自覚があるのがすさまじい。晩年の母親との交流についても、やはり普通ではない雰囲気が伝わってきた。

アメリカやイギリスやフランスではなく、ドイツのベルリン、ラトビア、モンゴルと普通ではない場所を選んでいる。特にモンゴルについてはかなり厳しい生活を強いられたようだ。それらが語られているエッセイでは、モンゴルでの食事や野菜がないことの苦悩などが描かれている。

そのほか、ドイツではほとんど魚は食べないらしい。その生活を続けていると、逆に日本に帰ってからも魚を受け付けない体になっているとのこと。かなり強烈なインパクトのあるエッセイだ。

母親関係のエッセイはすさまじいインパクトがある。



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