富士山 


 2025.1.22      オカルト臭が強い短編集 【富士山】


                     
富士山 / 田口ランディ
評価:3.5
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■ヒトコト感想
富士山がテーマのオカルト臭が強い短編集。富士山をなにかスピリチュアルな物として捕らえている。印象的なのは間違いなく「ジャミラ」だ。ゴミ屋敷に住むジャミラのような老婆と、老婆を説得してゴミを処分したい市役所勤務の男。親が議員で優等生として育てられた男がジャミラと出会う。

ゴミ屋敷に住む老婆の心境は不明だが、男の助っ人として登場した心理学者の女が強烈だ。ジャミラの心の壁を解くために毎日、崎陽軒の弁当をもって通う。何か話をするのではなく、毎日同じ時間に同じ行動をとることで相手からの警戒心を解く。ジャミラを説得するプロセスも面白く、優等生の男が実は中身が空っぽで、それが相手にすぐばれてしまうくだりも最高だ。

■ストーリー
そうだ、僕らには富士山がある!せつなくて美しい魂の彷徨富士山の麓で十年以上も集め続けたゴミの要塞に住む、妖怪のような老女の話「ジャミラ」他、富士山にまつわる珠玉の連作短篇集

■感想
「青い峰」は感情が欠落した男がコンビニバイトの若い女に言い寄られる物語だ。偶然強盗に入ってきた中学生を撃退したことで、19歳のバイトの女の子が近寄ってくる。男はどこか普通ではない。過去を回想するパートで、オウム真理教のサティアンのような場所で修業していたような描写が続く。

そこで同じく修行をしていた知り合いが、幹部にリンチされて死亡したと聞かされる。人生に絶望して宗教に走ったわけではない。富士山のふもとで修業したことが、男の人格形成にどのような影響を与えたのか…。

「樹海」は、自殺の名所である富士の樹海に中学生たちが面白半分に入り込んで野宿をしようとするのだが…。少年たちは様々な理由で両親から圧力を受けてきたのだろう。それが爆発する形で樹海での野宿となっている。

両親にゆがめられる過程で、中学生であれば反抗することは難しい。親が医者の子供は、医療の知識があるので、樹海で行き倒れになっている自殺志願者を助けることになるのだが…。富士の樹海というだけで恐ろしい。富士山は明るい場所で見れば雄大ですさまじいが、夜見るとまた雰囲気が変わるのだろう。

「ひかりの子」は、産婦人科に勤務する看護師が富士山に登る物語だ。若い女が何も考えずに堕胎する。看護師はそのお気楽な態度と、殺される子供のことを考え若い女に憎悪の気持ちをたぎらせる。実際に産婦人科の看護師は同じように子供を下ろしにくる若い女に対して憎しみの気持ちをもつのだろうか。

何も考えずにセックスした結果。プロの看護師としては、憎悪の気持ちを患者に知られてはならない。若い女が退院する際に、すべてに気づき、憎しみをぶつけるのはプロ失格だとなじる。確かにその通りかもしれない。

すべてが印象的な短編集だ。



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